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世の中には挑戦的な切り口の作品がいくつもある。よく「変わり種」だとか言われるが、本作のレベルは桁違いだ。
主観撮影という一人称視点の作品は数多くあるが、本作は家の様子を映した固定カメラの映像のみで構成されている。時代設定が1995年だからなのか、ざらついたノイズ混じりの薄っ暗い家のあちこちをただ映し、主人公(と言って良いのだろうか)の幼児2人が異変の起こる家と、近づいてくる異形の者と数少ない会話をするだけの映画だ。時折声は聞こえるものの何故か居ない両親と、突然消える窓やトイレ。この説明は勿論なく、2人の兄弟はテレビを見ながら両親を探したり、廊下を歩いたり、カメラに映らない所でガサガサゴソゴソしたり、何者かに呼ばれたりとただ動き回る。
ジャンプスケアが数回あり、完全に油断しているとビビるし、流れるTVのアニメが不穏だったりとそれっぽいホラー演出があるものの、結局のところ90%観ていても分からないまま終わるのだ。
これらは何かと言うと、自分の幼少期もそうだったが誰も居ない家で、わずかに開いたドアや暗い部屋に多少なりとも恐怖した覚えは無いだろうか。私は母が入浴中の1人で居る寝室が怖く、廊下で出てくるのを待っていたが、そんな「子どもの頃の漠然とした暗闇、独りぼっちに対する恐怖」を映像化したものである。色々な変わり種作品を見た上で本作も鑑賞した為まだ"観れた"方だと思うが、絶対に人には勧めてはいけない作品である事に間違いない。
だが、冒頭で恐らく父親が誰かと電話している音声が流れるのだが、兄弟の1人が頭を打って怪我をし、病院に行ったが問題ないので帰ってきた的な内容の話である。この電話の内容が直接的に関わってくる事はないが、物語の終盤、「572日目」と突然テロップが流れる。一瞬600日近くもこんな意味不明な世界に居たの??と困惑したが、ここで冒頭の電話の内容を当てはめてみるとこう推測される。
結局頭を打って怪我をし、問題なくて家に帰ったのでは無く、昏睡状態等意識が回復しない状況になり、病室で横たわるのを両親と兄弟が見守っていたのではないかという事だ。だから時折父と思われる声が聞こえ、すすり泣く女性(母親)の声が聞こえたのではないか。それも時折だったのは両親が共働きでずっと病室のそばにはいれず、唯一一緒に居たのは兄弟だったのではという事だ。もしかすると兄弟も同じ状態だったのかとも取れるし、「ママの話はしたくない」という台詞もあったため先に事故で母が無くなったのを理解している状態なのではとも取れる。いずれにせよ全て推測だが、572日目に天国へ旅立つまでの意識がない中でもがき苦しみ、近くで見守る両親らの気配を感じながら亡くなった、意識不明の人物の頭の中の映像なのではないか。そうすれば理不尽な展開にも説明がつくだろう。そうとしか考えられないし、恐らくパンフレットも無いだろうからそうだと言うことにしてとっとと次の作品を観ようと思ってしまったが、多分こういう事だろう。なんせ真っ暗、家の隅等微妙なカメラの位置、兄弟の顔すら映らない、ノイズ混じり見にくい映像、これで100分は長すぎる。せいぜいもって75分程度だろう。そんな拷問チックな作品に出会える事は少ない為、貴重な映画体験とキレイに締めくくっておこう。