劇場公開日 2025年4月4日

「カメラの向き」HERE 時を越えて のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5カメラの向き

2025年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 カメラを固定することによって、見えるものが限定されることのメリットとデメリットがあるように思う。見えないところで起こっていることを、観客が想像することで物語が深まるように感じたが、基本ストーリーにとって重要なできごとはすべて画面の中で起こる。少し物足りなさをかんじたが、最後のマーガレット(ロビン・ライト)の「私はここにいた」というセリフを聞いて、「ここ」で起こったことがこの映画にとって最重要であったことに気付き、落涙した。
 ただ、であるがゆえに、あのリビングを空間的に見せる工夫があってもよかったのではないか。2020年パートで、鏡のついた化粧ダンスを運び出すタイミングで初めて、カメラの後ろ側が見える。前述のラストシーンでカメラが大きく動き、空間的広がりがこちらに伝わる。こういった空間をこちらに意識させる工夫がもっとあってもよかったのではないかと感じた。窓辺から見たバージョンでこの話をもう一度見たい。実験的な映画だったからこそ、もっとチャレンジングな絵作りがあってほしかったと感じてしまった。

 一人の人間の人生を描くという点ではこの映画は大河ドラマである。リチャード(トム・ハンクス)を中心に、世代の違う家族の物語や、『フォレスト・ガンプ』でも描かれたアメリカ現代史を織り交ぜながら人の一生を104分で描き切るストーリーテリングの手際はさすがである。

のむさん