風に立つ愛子さんのレビュー・感想・評価
全1件を表示
私的なレクイエムとしての一作が持つ普遍性
今作は、避難所で出会った愛子さんの「生」を映画という形でこの世に残すことを目的とした、藤川監督の極々私的な作品であり、だからこそ、広く普遍性を持ち得た作品になったのだと思った。
<以下、内容に触れています>
この作品を観ている中で、肌で感じたのは、映像の中で愛子さんが語る言葉のすべてが、客観的な事実とは限らないということ。単純な思い違いもあるだろうし、カメラが自分を追ってくれていることへのサービス精神も少し垣間見える。でも、そこの部分こそがリアルだ。
彼女が、自分自身の生を、自分がこの世に生まれ体験してきた物事の意味を、全力で肯定しようとしているからこそ、そうした言葉の数々は生み出されるのだろうし、彼女の気持ちの中では、本当なんだろうと思う。
客観的事実という面から言うと、愛子さんが、学費の面倒までみようとしたという姪御さんは登場しない。避難所で、人一倍可愛がったゆきなさんも、20歳を過ぎているはずだが出てこない。孤独を抱えていたという彼女が、避難所で得た関係性のありがたさ、仮設住宅での長屋暮らしの温かさを口にしても、周囲の方々から語られる言葉や示される振る舞いは、必ずしもそれを肯定するものとは言えないニュアンスもにじむ。
けれど、客観的事実がどうであれ、大切なのは、愛子さん自身が「自分の人生をどう受け止めて納得し、“生”につなげているのか」なのだと思うし、今作はひたすらそれに寄り添っていた。
冒頭の留守電が、とにかく切ない。
コメントする (0件)
共感した! (0件)
全1件を表示