「あなたならどうする…?」ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女 オパーリンブルーさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたならどうする…?
ユダヤ人迫害がテーマの作品はかなり見込んでいて、これもその中のひとつとして、金髪美女がナチス将校を色気でたぶらかすような筋立て(2024年夏公開「フィリップ」の女版)かな、とあまり期待しないで鑑賞したが、期待以上・予想以上に惹き込まれた
18歳のステラ、アメリカでジャズ歌手になるのが夢で仲間とバンド活動中。ナチズムが台頭している中、両親は伝手を頼りビザ申請しても駄目と嘆いている…でもユダヤ人であるだけで迫害されるなんて他人事とばかりに笑いさざめく日々…
シーンはあっという間に3年後、この手の映画にお馴染みのユダヤ人の地味な服を纏って、つらい工場の立ち仕事するステラ。バンド仲間と結婚しているが、夫婦仲はしっくりしていない。夜な夜なアパート内の誰かが強制連行される音に怯える日々。ある日親しくしている工場のチーフの、席を外せ!という目配せを見逃さず、母親と隠れようとした所に、突撃隊が「全員外に出ろ!」と踏み込んできて…
よくあるユダヤ人迫害の作劇「アンネの日記」「戦場のピアニスト」、「シンドラーのリスト」も、隠れ家に潜んだりした末に収容所に送られた人々のものなのだが、「ステラ」はユダヤ人なのにもかかわらず、ナチス政権下の街中で生き延びた人間なのである
飢えや虐待の末に殺害され、モノのように処理されることは、言葉にならないほどの悲劇であるが、悲惨な中でもユダヤの仲間同士の交流や支え合う姿に人間性の温かみがあるが、ステラはその輪の中には入れない
工場での逮捕から逃げて両親と共に潜伏した後、身分証明書の偽造を生業とする、ユダヤ人男性(ロルフ)と生き延びる道を選ぶのである
彼は魅力的で有能ではあるが、生き延びる知恵を金に換えて、仲間であるユダヤ人に高値で売るのである。市中に潜む仲間の為の身分証明書偽造や、隠れ場所の斡旋、ユダヤ人に親身に接するドイツ人の情報を操る彼の傍らで、半ば刹那的に生きていく美貌のステラ…
中盤ゲシュタポに捕まり「アウシュヴィッツに送られたくないなら、隠れ住んでいるユダヤ人の情報を寄越せ」と壮絶な拷問を受ける。この映画はR指定なのだが、これはこの暴行シーンが凄まじいからと思えるほどに真に迫る。ここまで痛めつけられ、情報提供か収容所送りかの道を選べと言われたら、自分ならどうする…?と自問自答する。急極の選択かもしれない
収容所を生き延びる話も生死を分ける瞬間の連続だが、ナチスの手先として生きていく道を選ばざるをえなかったステラはシン・レッド・ラインを辿るギリギリの道を進むより生き延びる手段はなく、その意味で彼女は加害者であり被害者でもある訳で
ステラを演じたパウラ・ベーアの、文字通り身体を張った演技が凄まじい。この話は大戦後行なわれた戦争裁判をモチーフに創られたそうだが、「シンドラー」のような感動の涙すら許さないストーリーで、2時間を全く飽きさせることない。「戦場のピアニスト」のような大掛かりな戦闘シーンは無いが、どのシーンも緊張感に満ちていた