「美晴の言葉。言葉の大切さ。言葉の持つ力。 言葉にしない人、余計な言葉の人。 言葉がリズムを繋ぎ、青い空に父の傘が羽ばたく。」美晴に傘を ITOYAさんの映画レビュー(感想・評価)
美晴の言葉。言葉の大切さ。言葉の持つ力。 言葉にしない人、余計な言葉の人。 言葉がリズムを繋ぎ、青い空に父の傘が羽ばたく。
言葉の大切さを感じる映画。
話す言葉は少ないがとてもユニークで温かい表現をする美晴。
詩人だった父親からの贈り物に違いない。
観てから時間を置くと色々考えさせられる。
言葉にしないと伝わらない。
けれど、説明しない人たち。
美晴の母は、義父や町の周囲の人々に対して、この子は、こういう症状だからなど一切説明しない。
恐らく何十年間、最初は説明していたけれど、あの性格だから、悪いことは何もないのになぜ説明して頭下げないといけないのかと思うようになって、それからは無視するようになったのかもしれない。
普通なら必ず入れるだろうシーン、こんな場面なのにヘッドホンするなと注意されてしまうとか、他人のお墓の花を勝手し差し替えて母がいちいちやめさせるとかも一切ない。
葬式の派手なワンピースも、ふつうなら皆の前で思い出を語って泣かせる場面がありそうだが、一切説明しない。
わかってもらおうと思っていない。
その性格もまた、義父との軋轢を生んでいる。
義父も、美晴の父も、言葉に出して話さない。
少ない言葉から誤解を生んで、すれ違う。
その反面、いらない言葉で、うるさい人々も多い。
観客がそう感じるのは、美晴が日常感じているうるささに通じるかもしれない。
美晴にあてられる言葉の暴力もある。
美晴の祖父の友人は、昔のHな表現の俳句で観客を引かせる。
居酒屋出禁の常連は、美人女性だと臆面もなく露骨に言い寄る。
昔は普通だったかもしれないけれど、今となっては聞くに堪えない言葉や態度になった。
皆、本人に悪気はないけれど、そうなら許されるのか。
過剰な対応で家にまで押しかけてくる書道の先生もうるさい。
けれど、そういううるさいおせっかいな人によって、無理やり心を開かせられることもある。
そうして物語の終盤では、それぞれが皆、現状から一歩踏み出すところが前向きでいい。
春の父や母が交互に話し、やがて言葉がリズムを繋ぐシーンが心地良い。
活き活きとした美晴を演じた日高麻鈴、姉に対してどこまでも優しい妹・宮本凛音、二度目の映画主演という升毅、母親の強さと弱さ表現した田中美里、父親の優しさを表した和田聰宏ら俳優陣が素晴らしかった。
印象に残る「傘」で表現したシーンが美しい。
美晴を守る父遺した傘。
カラフルな「傘」が美しい。
澄み切った青い空が美しい。