「演奏よりも人となり?」ピアノフォルテ すーちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
演奏よりも人となり?
2021年の第18回ショパンコンクールを追ったドキュメンタリー。
出場者の中から6人に焦点を当てて撮影。
コンクールは本来5年に一度ですが、2020年開催予定だったものがコロナ禍で1年延期。
マスクをしている人が画面に沢山映っているのはコロナの余韻を感じさせます。
ラプンツェルのような長い金髪が目立つエヴァ、中国の小皇帝といった感じのハオ・ラオ、ヨガ好きのアレックス、アレックスといつも一緒にいる気のいいレオノーラ、自然体でざっくばらんな語り口が魅力的なミシェル、カメラ映えを気にするマルティン、それぞれキャラが立っています。
ステージ上の演奏シーンは思ったより少なく、彼らのプライベート(実家でくつろぐ様子や練習風景、師匠との会話など)にカメラがかなり斬り込んでいたのが新鮮でした。
アスリートのようにジムで身体を鍛え、基礎練習を欠かさないエヴァの様子はいかにもロシアっぽい。師匠には絶対服従で、フィギュアスケートやバレエの世界と重なる。
中国のハオ・ラオの様子は対象的で、彼の教師はまるで母親のように世話を焼き、常に励ます。トイレに行かなくていいの?とか、着替えたら?などなど、見てるこちらが引いてしまうくらいかいがいしい。
アレックスとレオノーラは予選を勝ち抜くたびに祝杯をあげて楽しそう。(さすが陽気なイタリア人)
ミシェルはいちばん醒めていて、コンクールにチャレンジするのは経済的に安定するためだとバッサリ言い切る。ショパンコンクールだけが唯一、優勝者が名を残せるコンクールだと。
マルティンは容姿がショパンに似ていて(本人も意識している)、優勝する気満々で挑んでいたがまさかの途中棄権。ポーランド人だけに地元から期待されるプレッシャーに耐えかねたのでしょうか。そのあたりが深く突っ込まれなかったのがやや残念。
毎回審査に時間がかかるのもこのコンクールの特徴で、夜のステージでファイナルの協奏曲を弾き終えた後、数時間の協議を経て順位が決定。
長い待ち時間の間、ファイナリストたちが客席で写真撮影に興じる姿が一瞬映りましたが、普通の若者に見えて微笑ましかったです。
ここにたどり着くまでに並々ならぬ努力があり、プレッシャーに耐えてきたことが示された後の…ラストに幼少期のコンテスタント達がひたむきにピアノを弾く映像には涙。
ピアノコンクール好きも、そうでない方にもオススメしたいです。
ここから先はとあるピアノファンの戯言…↓
私は当時このコンクールをYouTubeの配信でほぼリアルタイムで視聴していましたが、界隈ではとある日本人出場者の話題で持ちきりで純粋に楽しめなかった記憶があります。
その日本人ピアニストが人気なのは演奏が魅力的なのはもちろんですが、SNS等で彼らの人となりがよく知られているということが大きい。
今作の6人も、このような舞台裏を知って演奏を聴くのと、知らないで聴くのではかなり印象が異なるだろうなと思ってしまいました。
私は(当時は何とも思わなかった)エヴァとハオ・ラオにすっかり感情移入してしまい、結果を知っているのにも関わらず彼らが入賞できなかったことにがっかりしてしまいました。
ドキュメンタリー、どこを切り取ってどう編集するかで見ている人の印象を操作できる、なかなか恐ろしい代物ですね。
今作は誰か特定の人物や組織に肩入れするでもなく、比較的公平な目線で撮られてはいましたが。
プロジェクトなんちゃら、や情○大陸のようなアゲアゲドキュメンタリーは眉唾モノだなと改めて思いました。
