劇場公開日 2025年1月18日

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「映画の中の映画の中の現実」Retake リテイク 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映画の中の映画の中の現実

2025年1月25日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

写真を撮るのが好きな高校三年生の景は、映画を撮りたいという同級生の遊からカメラマンをして欲しいと頼まれる。
仲間を集めて映画づくりを始める景と遊。
順調に進んでいた映画づくりだったが……

主演の麗さんがボーカルのバンド、チョーキューメイが好きなのと、なんとなく面白そうだと思って観に行ったけど…
この映画すごい好き。
映画を撮る映画って、出し尽くされた感があるのに、観るたびに違う魅力と発見がある。
やっぱり自分は映画が好きなんだなって、そう思う。
この映画もまた、観たことない新鮮さがあって、なんだかよく分からないけれど感情がぐちゃぐちゃになって、胸が締め付けられるように恋をしてしまった。

劇中で遊たちが撮っている映画では、「時間の流れない世界への旅」が描かれる。
川の流れのようにすぎていく「時」。
そして、物語は湖へと辿り着く。
湖に辿り着いた水は水蒸気となり雲となり雨となって、また大地に降り注ぐのだ。
遊はラストシーンについて悩む。
「時間の流れない世界への旅」を終わらせるべきか、否か。
映画はどんな形でも終わらせなければならない。
この映画が選んだ「おわり」方はとても可愛らしい。
時だけが過ぎていく残酷な青春へのこの幕の下ろし方は大正解だと思った。

一度流れてしまったら元に戻ることはない時間。
その流れに逆行し、その川を遡るには努力がいる。
来年から社会人となる自分だけれど、なんだかすごく刺さってしまった。
大学では演劇をやったり後輩のドラマ撮影に参加したりと、密かに憧れのあった世界に挑戦はした。
でも、もう一歩踏み出せなかったようにも思う。
親の顔とか世間体とか気にしてばかりで、気づけば安全な方ばかり選んでいた気がする。
この映画を観て撮影に協力した時や演技をしていた時の感情がぶわぁーと湧き上がってきた。
映画撮りたかった!もっと演技したかった!
やっぱりエンターテイメントが、見るのもやるのも好きなんだな。
自分の選んだ道に決して後悔があるわけではないけれど、もう過ぎた時間は嘆いても帰ってこない。
やりたいことはある程度なんでもできる時代。これからどんなアクションを取るかも自分次第だ。

こういうものづくりの現場を少しでも経験したことのある人は刺さる部分があるんじゃないかな。
例えば、恋愛とか…
創作活動において恋愛感情は自然に発生してしまうものだけど、恋愛を介在してはならないみたいな。
ものすごくリアルだった。
だって遊みたいな女の子いるもん。
こうなるのが怖くて諦めた恋があったっけ。

これぞ青春映画だと思う。
青春を描いたドラマや映画って、「そんな青春自分には無かったヨ」ってものが多いけどこれは違う。
見覚えのある風景。聞き覚えのある音。
何気ないあの時のあの景色がこの映画にはあった。
いつってわけじゃないけど、あの頃。

私の偏愛かもしれないけど、早速今年ベストかもしれない。
上映館数は少ないけど、たくさんの人に観て欲しい。
こんな余韻が残ってる映画は久しぶりだな。

追記
相田冬二さんと中野晃太監督のトークショー付き。
上映後には、監督と少しお話できたしパンフレットにサインも頂けた。
是非また映画撮って欲しい。

唐揚げ