「【”表層は穏やかな小さな村の闇が惹き起こした事。そして回復した正義。”今作は、中年の警官が村の闇を見て見ぬふりをして過ごす中、葛藤に打ち勝ち正義を回復する姿をシニカルテイスト満載で描いた作品である。】」おんどりの鳴く前に NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”表層は穏やかな小さな村の闇が惹き起こした事。そして回復した正義。”今作は、中年の警官が村の闇を見て見ぬふりをして過ごす中、葛藤に打ち勝ち正義を回復する姿をシニカルテイスト満載で描いた作品である。】
<Caution!内容に触れています。>
■ルーマニアの田舎の村の警官イリエが主人公。彼は、10年前に町で起こした出来事が原因で正義感を失い、妻モナとも別れ、果樹園を営む事だけが夢である。だが、彼の元に新人警官ヴァリが赴任し、その直後村一番の美女クリスティナの夫が或る晩、斧で頭をカチ割られ、死亡している姿が発見される。
◆感想
・序盤からのイリエの、警官の職務を放棄したかのような無気力な姿が印象的である。制服の第一釦はいつもダラシナク開いており、制服もよれよれである。
彼の生き甲斐は、村の丘の上にある果樹園を買い取り、サクランボと杏を育てる事である。故に彼は元妻と所有しているアパートを売ろうとしている。ハッキリとは言及されないが、彼は10年前に町で警官として正義感ある事をしたが故に、妻と別れ村の警官として逼塞した生活を送っているようである。
・そこに、やる気のある新人警官ヴァリが赴任するが、イリエは中年夫人の洗ったシーツが無くなったという申し出にも素っ気ない態度で対応しない。だが、その直後、クリスティナの夫が斧で頭をカチ割られ、死亡している姿が発見されるのである。
・聞き込みを始めた新人警官ヴァリに対し、イリエは”余計な事をして、波風を立てるな!”と叱責し、彼の捜査を中断させる。だが、イリエはコスティカ村長が頭を柱に何度も打ち付けている異様な姿を目撃するのである。
ー イリエがヴァリと彼が望む果樹園に行った際に、ヴァリから”良い所だけれど、足元にはゴミが沢山有りますね。”と言われ、足元など見ずに上を見ていればよい。”という台詞が彼の生き方を象徴していたのだが・・。序盤にイリエは、釣り人達を川に行かせない行動を取っているしね。-
■だが、コスティカ村長とヨルダン神父の、村のヒエラルキートップの二人の闇が、徐々に明らかになって行くのである。コスティカ村長とヨルダン神父は、クリスティナの事を常にニヤケタ顔で”美しい。”と言い、果てはイリエに対し果樹園の譲渡を持ちかけるのである。勿論、賄賂である。
そして、ある日新人警官ヴァリが舌を切られ、血だらけで倒れている姿が発見されるのである。
・それを知ったイリエは検察官の”犯人を拘束した。”という絶対に犯人ではない名前をTVで聞き、村長に猛抗議するもあしらわれる。
更には、コスティカ村長とヨルダン神父がクリスティナと激しく罵り合う声を聞き、彼女が顔に痣を作り一人息子とバスで村を出て行く姿を見て、彼の中の正義が蘇るのである。
■イリエは、コスティカ村長とヨルダン神父が密輸をしている河原に制服の第一釦をしっかりと締めた姿で行き、コスティカ村長夫婦とヨルダン神父、密輸に関わっている者たちに拳銃を向けて近づき、激しい発砲が繰り返され斧が振り下ろされる中、正義の行いをキッチリとし、背中に斧が刺さったままフラフラと川に入り、水面に自分の顔を映し”悪くないな。”と言い川に倒れ込むのである。
ー ここでの、イリエと、コスティカ村長とヨルダン神父たちとの銃撃戦シーンで弾が出なかったり、密輸していた男の機関銃がコスティカ村長の妻を撃ち殺してしまったり、イリエがヨルダン神父に斧で襲われ悲鳴を上げる姿などが、何故かブラックな喜劇のようでもあるのである。秀逸だなあ。-
<今作は、中年の警官が村の闇を見て見ぬふりをして過ごす中、葛藤に打ち勝ち正義を回復する姿をシニカルテイスト満載で描いた作品なのである。>
<2025年2月16日 刈谷日劇にて観賞>