「大人にとってのイマジナリーフレンドは、ほとんどの場合は地縛霊なんですよね」死に損なった男 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
大人にとってのイマジナリーフレンドは、ほとんどの場合は地縛霊なんですよね
2025.2.25 MOVIX京都
2025年の日本映画(109分、G)
自殺願望があった構成作家と彼に取り憑く幽霊との騒動を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は田中征爾
物語の舞台は、都内某所
お笑い芸人などの構成作家をしている関谷一平(水川かたまり)は、多忙を極める中、ふと最寄駅にて飛び込み自殺を図ろうと考えてしまった
だが、彼を轢くはずだった電車は到着せず、一つ手間の駅にて人身事故を起こして止まっていた
気を取り直した一平は、そのまま日常に帰るものの、どうしてもその事故で死んだ人の事が気になってしまう
そこで、現地に行って駅員に聞いたり、ネットで調べていくうちに、その男が森口友宏(正名僕蔵)という60歳の男性であることがわかった
何を思ったのか、一平は関係があった人のふりをして葬式に突入し、その顔を拝見していく
喪主は娘の綾(唐田えりか)で、彼女にまとわりつく不審な男(のちに元夫・若松克敏と判明、演:喜矢武豊)を目撃してしまった
その後、何事もなかったかのように帰宅した一平だったが、突如彼の前に友宏が現れてしまう
友宏は「知らん顔が葬式に来たことが気になった」ようで、その素性を探るために追いかけてきた
一平の目的を知った友宏は気味が悪いと思うものの、友宏のことが見えて、さわることができるのは一平だけのようだった
そこで彼は、一平に元夫を殺すように脅しかけるのである
映画は、このシークエンスに来るまでに結構な尺を取っていて、主に一平の日常を切り取っていく
職業映画の様相を呈し、普段はあまり深くは立ち入らない構成作家の日常というものが描かれていた
一平は小説家を目指していた時期もあったが、今は構成作家としての夢を叶えていて、そこそこの生活ができていた
だが、夢を叶えた先にあったもののために、彼はそれ以上の人生を歩む意味を見失っていたのである
映画では、成功したけど空虚という理解し難いような理由で死のうと考えてしまう人間を描いている
同じタイミングで後輩作家の沢本(森岡龍)も死のうと考えていて、彼は後輩でありながらも一平よりも成功している作家だった
また、一平の同僚のマネージャーの希(堀未央奈)もふとしたきっかけで落ちる可能性があって、その危うさというものがメインで描かれていた
彼らは全員孤独で、仕事で頼れる人はいても、何気ない愚痴を交わしたりできる人がいなかった
そう言った癒しから遠く、真面目な人間ほど陥る何かがあって、それがふとしたきっかけで背中を押す、という内容になっていたのである
いずれにせよ、芸人主役で監修に芸人が入っている作品なので、もっとコメディ寄りなのかなと思って見ていた
だが、実際にはかなり社会的な内容の濃いヒューマンドラマになっていて、良い意味で裏切られた感じがする
都会は人がたくさんいるけれど、いればいるほどに増す孤独感というものがあって、それを解消するには何が必要かを描いていく
一平にとっての友宏は地縛霊だが、実際には大人にとって大切なイマジナリーフレンドのようなもので、彼が生き続けるために贈られた神様のギフトなのかなあと思った