「もがきながらもこの時代に深い愛を」未完成の映画 レインさんの映画レビュー(感想・評価)
もがきながらもこの時代に深い愛を
どんな冷たい視線でコロナ禍の中国を描いてたか知りたくて観た映画だが、
良い意味で裏切られた。
そんな世の中でも、ロウ・イエ監督が映画の役割への問いかけを忘れず、中国人たちが生活への情熱を捨てずにいられた。
ロックダウンの必要性、中国人の過激な感情表現、とか。これはなぜ中国が社会主義国家になったのかと同じくらい複雑なもので、触れないことにしよう。
(なぜ日本人の政治への関心が薄いか、自粛とアベノマスクの意味、くらいややこしい)
重要なのはこの映画の持つ客観性とその時代意義だと思う。
一個人として共感が多かった。
不自由の身になって人間は初めて日常のありがたさを意識し、自分の大事なものが何なのか、わかるようになる。
そして時には、本当の自分に戻ってくる、、寂しさゆえに同じ境遇の人が群れて楽しいことをやろうとする。「同病相怜」、「苦中作乐」がそういうこと、中国人の得意分野。この辺りの描写がとても繊細でうまかった。
何よりも実際に経験してなくても感動できたのは、映画の中にいろん愛の形があるからだと思う。
暴力を振る舞った者は妻子への深い愛情を持つものでもある、秩序を守るものは感染のリスクを冒しながら働くものでもある、国家権力がすぐ働いて対策したことだって容易じゃない...
悪は存在しない。
劇中の言葉を借りると、ただただ、
なぜよりによって(私たちが)コロナに遭ってしまったのか。
ぶつかりながらも、多くの人が一致団結して14億人の間の感染を抑えた、みんな頑張って生きてきた、誰かが自己犠牲までして他人を救おうとしてた。
コロナ禍の時間が、人の記憶、そして歴史だけに残るものになっても、消えることがないよう祈ってる。
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実際にロックダウンを経験する人たちがこの映画が観れないこと、とても残念に思ってたが、こんな苦痛な出来事は一回だけで済んで良かったと。むしろその場にいなかった人間として、ロウ・イエ監督の記録と表現に感謝しかない。