「フィクションとドキュメンタリーのはざまで」未完成の映画 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
フィクションとドキュメンタリーのはざまで
2019年、10年前に資金がショートして未完に終わった映画を完成させようとするところから話が始まる。武漢にも近い南昌市で撮影が行われるが、翌年1月、春節(中国のお正月)の直前、武漢ウイルスの感染が及んでくる。ロウ・イエ監督の映画では見慣れた(ごひいきの)チン・ハオは逃げ遅れ、ホテルに強制的に閉じ込められる。てっきりこの場面からは、ドキュメンタリーと思って見ていた。監督や、役者、制作スタッフたちは、基本的にスマホで交流するのみ。チン・ハオは、北京に残してきた妻と生まれたばかりの赤ん坊とも、盛んにやり取りをする。そのうち、幾つかの点で、これはフィクションであった(撮影していた)ことに気づく。
後半は、武漢や、その周辺で撮影・投稿されたドキュメンタリーが織り込められる。
どこがよかったか。何といっても、撮影しているチームのヘアメイク担当スタッフが武漢出身者であったことから、ホテル滞在が拒否され、ロックアウトにより、個々のスタッフや俳優がホテルの部屋への長期滞在を余儀なくされたところ。あの頃、日本でもあった。
逆に困ったのは、後半、武漢とか、それに関連してウイグル自治区などの実際の映像が出てくるんだけど、スマホで撮ったような映像は、逆に個人的すぎて、あまり迫ってこないんだな、これが。
フィクションとドキュメンタリーが入れ子になった映画だったが、ドキュメンタリーに似せたフィクションの部分が一番迫真に迫っていて、現実と創作の違いの秘密に迫る思いがした。
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