「93点/☆4.3」ブラック・ショーマン 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
93点/☆4.3
ミステリーとして浅いとか、マジシャンである必要が薄いとか、人間ドラマも弱いとかそんな意見はどうでもいい。
私はこの作品が好きだ。誰がなんと言おうと。
フジテレビと東野圭吾作品のタッグが再び結実。今作は鮮やかなマジックと殺人事件の裏に隠れる家族の絆や、友情や故郷への想いなど普遍的なテーマが観る者の心を掴む物語。
福山雅治といえば『ガリレオ』シリーズで知性の象徴・湯川学を演じたが、今作ではアメリカで一度成功を掴むも、その後落ちぶれ日本に戻ったマジシャンを演じる。
華やかさの中に偏屈と哀愁を漂わせ、時に軽やかさと鋭さを兼ね備えた新たなヒーロー像を体現した。
有村架純は『花まんま』に続き花嫁役を繊細に演じる。打ち合わせの最中に父の不審死の知らせを受け、悲しみを抱えながらも真実と向き合う真世。事件の手がかりを追う過程で、父との因縁や同級生との絆が浮かび上がっていく。
叔父と姪、共に故郷を一度捨てた二人の対比が、家族の絆というテーマを際立たせ、物語が進むにつれて情感が増していく。
『ガリレオ』の湯川が知性とロジックで魅了したのに対し、今作の神尾は軽やかさとユーモアで観客を引き込む。確かに『容疑者Xの献身』の重厚さと比べれば軽快なトーンだが、その軽やかさこそが本作の武器。
説教臭さを排し、喪失や真実という重いテーマを、観やすいエンターテインメントとして昇華している。
冒頭マジックショーのプロジェクションマッピングを取り入れた圧倒的な映像美、虚構と現実の境界を鮮やかに揺るがす。開幕3分で一気に映画の世界に引き込まれる。山から見下ろす故郷の紅葉や雨に濡れた街並みも、色鮮やかで情感を高める演出が光る。
漫画に頼らなくても素敵なところが沢山あるじゃない。今だから分かる故郷の良さ。
カット割り、編集の妙、映像を支える音楽の重厚さ、物語自体はミステリアスではあるが端的。しかしそれを映す役者と制作陣が今作を高みへと押し上げている。
93点/☆4.3
特に心を奪うのは、雨上がりの川辺を二人で歩くシーン。
これまで嫌悪感を抱かせる言動を繰り返していた叔父が、兄の死を悼む弟として一瞬だけ見せる脆さ。
その姿に、彼がなぜ手段を選ばず真相を追い続けるのかという覚悟が滲む。真世はそこで初めて叔父を「家族」として受け入れる。静かな川の流れと、雨粒が残る美術の美しさが、この瞬間を作品全体の象徴へと昇華させている。
真相が一つずつ明るみになるミステリーの緊張感、日常の会話に忍ばせたマジックの軽妙さ、犯人に辿り着いた時に知る父の本当の姿、地元を必死に守ろうとする同級生たちの想いが交錯する結末。
父からも故郷からも遠ざかり、すべてを過去にしていた真世の目に映るのは、愛に支えられた街の姿だった。
「絆は真実だけで成り立つのか」「知らないことが幸福なのか」マジックの華やかさの先に、絆のタネを垣間見る。
すてきなレビューを読ませていただきました。大好きな映画なのに、自分では言語化できていなかったところを教えていただきました。ありがとうございます。川辺のシーン、本当に好きです。お二人の演技も映像も最高でした。
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