「あまり同感できない人物と推理の手法」ブラック・ショーマン アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)
あまり同感できない人物と推理の手法
原作は未読である。東野圭吾はこのシリーズをまだ2作しか発表していないので、「ガリレオ」のような連作にするのは難しそうである。福山雅治が「ガリレオ」の湯川役からの転身を図っているようだが、湯川臭さが抜け切っておらず、環境設定や道具立てが変わっただけとも見えなくはない。
主人公の神尾武史はアメリカで成功したマジシャンという設定で、自分のスキルを駆使して謎解きを試みるのだが、プロのエンターテイナーとしてのプライドが高く、能力の発揮には報酬を伴うという姿勢を崩さない。その態度は手塚治虫のブラックジャックのようで、「ブラックショーマン」というネーミングはその辺から来ているのだろう。
シャーロック ホームズが推理力で相手の情報を読み取って驚嘆させるのと比較すると、この神尾武史はマジックというよりスリの手口や最新鋭の電子デバイスを使って刑事などから情報を盗み取るので、あまり魅力的に見えない。また、何か芸を披露するたびに金銭を要求するところが一般的なヒーロー像から離れてしまっている。報酬を度外視しても事件解明に奮闘するのがサスペンスものの主人公の一般像であって、金にならないなら手を引くといった態度は失格である。
結局のところ、謎解きの鍵となるのがパソコンに残された文書というのも肩透かしである。ライターオイルやタオルといった遺体の痕跡から犯人を推理した経緯を後付けで説明するのでは弱いし、折角の能力の見せ場を無駄にしているようにしか見えない。所々にトランプの手捌きなどの動画がインサートされているが、本編との繋がりが薄いので鬱陶しく感じた。
映画冒頭にやたらと力を入れた特撮シーンがあり、映画の終盤にも同程度の見せ場があるのかと期待したら、色のついた布を窓の外にぶら下げただけというのは脱力した。プロジェクターで映像を見せるためだとしたら、普通に暗幕を使えばいいだろう。
怪しさを持つ登場人物が大勢出てくるのに、結局そのほとんどは怪しさを匂わせただけでほとんど無関係というのも肩透かしだった。姪の真世に怪メールを送って来た人物がただの迷惑な愉快犯でなかったというのに一番驚かされた。どう考えても、そんな相手と結婚するのはやめた方がいいだろう。
真世は第2作にも出てくるらしいので、有村架純が配役されたのだろうが、この泥棒まがいの手法で事件を解決する物語が回を重ねてもどれだけ面白くなるのかは非常に疑問である。音楽の佐藤直紀は流石だったが、エンディングの曲は福山の作だろう。無闇に派手な曲が鳴っていたのがむしろ空虚に感じられた。
(映像5+脚本3+役者3+音楽4+演出3)×4= 72 点。
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