「簡潔にまとめられた三角関係ロマンス」九龍ジェネリックロマンス あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
簡潔にまとめられた三角関係ロマンス
原作既刊11巻(95話)は読了。アニメは観ていない。ここでいう九龍というのは単なる地名ではなく1994年に取り壊された九龍城寨が再建された(ということになっている)第二九龍城寨と、そのジェネリックであるバーチャルな第二九龍城寨継続版を指す。九龍城寨跡地は公園になっているそうなので、漫画に出てくる廃墟より映画での野原の方が実際のイメージに近いかもしれない。
さて原作漫画はSFに加えて、時空認識や、実存的自他認知などの哲学的アプローチへも踏み込んだ相当にスケールの大きな作品であり、現段階ではまだ完結していない。
最大の売りとなるのが、医薬品の概念である「ジェネリック」を自他の差異ラベルとして持ち込んでいるところである。簡単に補足しておくと、ジェネリック医薬品というものはオリジナル薬効物質の特許が切れた後に製品化が可能となる後発品ということになる。2つポイントがあって、先発品と後発品は全く同じかというとそんなことはない。そして先発品の価値が常に後発品を上回っているかというとそんなこともない。というのは主要成分の化学式はコピーされているが製剤にあたっての粒子化や賦形剤との混合やコーティング方法はすべて異なる。だから結果としてジェネリックがオリジナルを有用性で上回ることだってあり得る。
だから、この作品を一言で説明しようとすれば、ジェネリックである鯨井令子が、オリジナルである鯨井B以上に工藤に愛されるようにもがき苦しむ話であるといえる。ただ、もし、ジェネリック鯨井令子自身が、工藤の生み出した想念であるのならば、それは限りなく工藤好みの女性を創り出すプログラムに過ぎないのではないかという疑念が残るが。
いずれにせよ、映画化にあたっては、工藤と鯨井以外の登場人物たちを狂言回しの役割程度に落ちつかせ、鯨井Gと鯨井Bと工藤の三人による三角関係のロマンスに絞り込んだことは良かったと思う。多分、ダラダラと漫画原作をなぞってもロクな作品にはならなかったただろうから。

