「時間切れを待っているのか」いもうとの時間 さとうきびさんの映画レビュー(感想・評価)
時間切れを待っているのか
1961年に起きた名張毒ぶどう酒事件の再審請求を追ったドキュメンタリーです。
浅学のため事件の詳細を知りませんでした。この作品を観て衝撃を受けました。
事件発生の数日後に逮捕された被告。
裁判では犯行を自白した供述書を主な証拠として審議が進められ、逮捕から3年後に出た名張地方裁判所による一審の判決は無罪。
判決主文では捜査側の強引なこじつけについて裁判官が言及しています。
被告は釈放され、身内の誰もがこれで事件は終わったものと思いました。
ところが4年後に出た名古屋高等裁判所の二審判決はいきなり「死刑」
社会に戻り普通に働いていた被告は再び拘置され、その後死刑判決が確定して死刑囚となります。
事件発生、逮捕、拘置、無罪、死刑判決。
二転三転する状況に応じてコロコロと態度を変えた集落の住人。
あからさまにはできないが、ずっと判決に疑問を抱いていた集落の住人。
正義を信じ続けた一審の裁判官。
被告の母、妹、義理の弟は被告の無罪を信じ、弁護団、支援者の助けを借りて再審請求を行うこと、半世紀に渡り10回。
昨年出された10回目の再審請求の結果は…
仲代達矢による深みのあるナレーションが、センセーショナルになることなく家族や支援者達が抱えた疑問を効果的に観客の心に染み渡らせます。
昨年、再審で無罪判決が出た袴田巌さんの映像も効果的に挟まれます。
司法制度は私達の暮らしを守ってくれている。それは揺るぎない事だと思います。
けれど、人間の作った制度に完璧はありません。
誰かが何かの事情でそれを捻じ曲げようとしたときに無実の人の人生を奪う危険性を常に併せ持っていることを、たとえどれだけ数は少なくとも、法の隙間に挟まれてしまった人を見捨てない努力を私達は忘れてはならないと思いました。
被告の残された唯一の肉親である妹、美代子さんは現在94歳。
被告は既に亡くなっています。
再審請求は被告の肉親しか行えないとのこと。
司法は何かを待っているのでしょうか?