「かつて思い描いたボクたちのロボット」エレクトリック・ステイト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
かつて思い描いたボクたちのロボット
人間とロボットが共存する世界と言うと近未来が相場だが、本作では1990年代というのがユニーク。
1950年代頃からロボットが人間社会に関わり始め、ディズニーランド誕生にも貢献。
人間に尽くしてきたロボットだが、自我を持ち、自由を求め人間に反旗。人間とロボットの対立が深まり、1990年に戦争へ。
当初はロボットが優勢だったが、大企業“センター社”のCEO、イーサン(誰がモデル…?)が開発した人型ドローン=“ニューロキャスター”の登場により戦況は一変。人間が勝利する。
ロボットの自由は認められず、一定の区域“エレクトリック・ステイト”に隔離。
ロボットへの差別が横行する“if世界”の戦後の現在(1994年)で…
家族を事故で亡くしたミシェル。特に可愛がってた弟クリストファーの死は心に深手を負い…。
ソリの合わぬ里親の下に預けられているミシェルの前に、ある日突然、一体のロボットが現れる。
それはクリストファーが好きだったアニメのロボットキャラ“コスモ”で、ミシェルはこのロボットにクリストファーの雰囲気を感じる。
クリストファーは何処かで生きていて、このロボットを動かしているのでは…?
そう信じたミシェルはコスモと共にクリストファーを探す旅に出る…。
人間とロボットの関係。対立と戦争。度々描かれる定番ネタだが、永遠の課題。
センター社が開発した人型ドローン。身体と意識を分離させる事が出来る装置。身体は動かさずとも、意識をドローンに繋ぎ動かす。
ロボットが差別されているのに、人間は別のハイテクに依存。便利になる一方の文明社会をチクリ黄色信号。
社会派メッセージも織り込まれているが、基本はジュブナイル的な王道エンタメ。
ミシェルとコスモ(弟)の絆。
旅には仲間が必須。途中出会った密輸業者キーツと相棒ロボのハーマン。
反発し合いながらの彼らとの交流、掛け合い。
喧嘩するほど仲がいいキーツとハーマンの友情も。
大小個性様々なロボットたち。
そんなロボットを狩る敵。大企業の陰謀。
ロボットたちのVFXのクオリティー。勿論、ロボット・バトルも。
ツボをしっかり抑え、一見子供向けに思えるが、ただの子供向けだけに非ず。
子供にはワクワク。かつて子供だった大人たちも童心に返ってワクワクしつつ、根底のメッセージに考えさせられる。
ロボット・ムービーの好編。
何と言っても、レトロ感あるロボットのデザインが堪らない。
今ではロボットと言うと、リアルでカッコいいデザインが主流だが、かつてボクたちが思い描いていたロボットってこんなだった。
もし、子供の頃描いた絵が残っていたら引っ張り出して。
レトロでチープだけど、こんな友達ロボットが欲しかった。
それを子供の頃思い描いた通りに、今形に。
アンソニーとジョーのルッソ兄弟もボクたちと同じロボット好き少年だったんだね。
ミシェルたちは“エレクトリック・ステイト”へ。そこでキーを握る博士に接触。
聞き出した驚きの真相とは…
クリストファーは生きていた。厳密に言うと、植物人間状態。
事故に遭った時身体は機能不全でも意識は生きており、それをネットワークに繋げた。
クリストファーは神童とも言われた天才的頭脳の持ち主。ミシェルにとっても自慢だった。
今人々が活用しているセンター社のハイテクは、クリストファーの頭脳あってこそ。それを隠し通し、傲慢なイーサンが利用していた。
怒りと悲しみのミシェル。弟を助けたい。
センター社を急襲して装置を断てばドローンの脅威は無くなるが、それはつまり、弟の意識も断つという事。
意識がネットワークに繋がれ、辛うじて生きている状態のクリストファー。
それで生きていると言えるのか…? こんな事、弟が望んでいるのか…?
誰よりも弟を愛し、理解していた姉だから分かる。
今生の別れになっても、弟を自由の世界へ解放させたい…。
クライマックス。意識下で再会した姉弟の姿が物語る。
また一段と大人の女性に成長したミリー・ボビー・ブラウン。Netflix作品との相性は良好。(『エノーラ・ホームズ3』はいつ…?)
クリス・プラットはクリス・プラットな役柄。
相棒ロボの声をアンソニー・マッキーが担当するなど、他にもMCUキャストが多い。
しかしそのルッソ兄弟の監督最新作ながら、批評家からは大酷評。Rotten Tomatoes現15%とは…。
批評家から見れば下らない子供向けなのだろう。
だけど、ロボットが好きなボクたちがこの映画を愛す。
欠陥あっても愛おしい。あの未来から来たネコ型ロボットのように。
日本人にこそウケるかもしれない。
アトムの時代から昔も今も、ロボットは身近に。
世界中のどの国よりも、ロボットは友達であり家族なのだ。