嬉々な生活のレビュー・感想・評価
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逞しさと瑞々しさと躍動と
冒頭、この映画は家族の「過去と現在」を柔らかなまなざしで提示する。母が存命で、父が不調に見舞われる前の、笑顔の花が咲きほこっていたあの頃。今ではあらゆる状況が変わり、青春真っ只中の主人公・嬉々(きき)は幼い兄弟のために自らを抑制し、必死に日々を走り続けることを余儀なくされている。この点、ケン・ローチや是枝裕和の作品が脳裏に浮かぶほどの切実さが滲む。しかしだからと言って心が苦しくなる状況にとどまることはなく、本作は独特のユーモアを片時も忘れず、人々が繋がり、支え合う姿を豊かに描き出そうとする。と同時に、本作は子供から大人への階段を昇る嬉々の人間観察でもあるのだろう。心に何らかの傷や痛みを深く抱え込んだ大人たち。彼らへの嬉々の目線が批判でも同情でもなく、真摯で真っ直ぐなものへと変わっていく過程に感動を覚える。そして不意に舞い降りるラストシーン。あの宝物と呼ぶべき一瞬が今なお心に響き続けている。
晴れやか感動映画ではない。
2020年代ベスト級の傑作。ルックスに油断するなかれ。ヤングケアラーを題材にした社会派感動映画ではない。
これは陽光降り注ぐ晴れやかな団地(家賃は滞納!)に棲む少女・嬉々と、その家族の生存をかけたサバイバルでありスリラーでありホラーでもある。
ペラい綺麗事や安い善意が易々と否定される様は、まるで我々の現実。
物語としてのご都合主義を丁寧に排除して、寓話的な着地点を失ったあとに訪れるラストはまさに、映画だからこそ成し得た風景。
嬉々ちゃんの淡々とした演技に胸キュンキュン💕
母を亡くした父と3人の子供たち。生きる気力すら無くした父に代わって中学生の長女、嬉々ちゃんがなんとか一家の暮らしを支えようとする…
設定だけ書くと物凄く悲惨で陰々滅々な話だと感じますね。
ところが主役、嬉々ちゃんが柔らかな現代大阪弁で淡々と受流す日常は妙にカラッとして「悲惨」という言葉を寄せつけません。
一家が暮らす団地の隣人、教師が差出す小さな(というよりは与える側が犠牲にならない)親切は悪びれることも自己卑下することもなく「ありがと」の一言で受取る。
けれど友人の行き過ぎた援助はきっぱり断る。
絶妙な人物造形です。
そして嬉々ちゃんを取巻く人々も夫々の距離感を保ちながら差し出せる範囲で親切を分け与える。
中には自らの情けなさ、鬱憤を弱い者いじめで晴らそうとする、どついたろかという人物も登場しますが、それでも「親切」という言葉が本作のキーワードだと感じました。
そしてラストの爽快感といったら!!
不思議と心が暖かくなる映画でした。
ギズモ
母親が亡くなり働かなくなった父親と小学生の弟妹の面倒をみるJCの話。
毎朝出かけるけれど弟妹を学校に送って自分は学校に行かず、友達のニキから紹介されたSNSのサクラをやって小銭を稼ぎつつ、バイトを探す主人公。
友達からノートを借りているのは救いかなというところだけれど、いよいよ小銭も稼げなくなって来る中で、ポンコツ担任がやらかしているところをみかけて、黙っているから金貸してくれと泣きついて…。
あらすじ紹介には働けないとか記されているし、元担任はメンヘラを疑っているし奇行もあるけれど、いずれにしてもこの人は元々甘ったれてサボるタイプじゃねとしか感じられず。
自分を責めるのではなく他人を責めるヤツね。
そんな中で更なるトラブルに展開して行き、暗くて良くわからなかったけれど弟妹含めやっちゃった!?と思ったら…。
終始モヤモヤさせてくれてなかなか良い作品だったけれど、この終わり方だとやっぱり父親は病気じゃなくてただのクズじゃない?という流れに感じたし、なんで誰も児相という選択しないのかと思い捲りだった。
大人しっかりして
9月のファーストデー3作目。
言うたら鬱への理解は本人も周りの人も大切という話なんかいな?
日本は生活保護が卑しいとか最下層とか訳のわからない刷り込みがあって(これは政府が意図的にやってるかもだけど)、本作もまんまとそれにハマってしまってるし、下手するとそれを増長しかねないなと思いながら見てた。大阪の児相は何してはんの?機能してないんか?でも、そういうことが伝えたいってわけでもなさそうで、かと言っていつの時代も子供は逞しいってわけでもないだろうから、いまいち監督の伝えたい主題が見えなかった印象はあるな。
あと今年は危なっかしい女の子の作品がちらほらあって、この先最悪の展開になりませんように、と半ば祈りながら見るのは本当に疲れる。パパ活とか裏バイトとかな。日本大丈夫そ?
とはいえ結局監督の良心によるものか、人としての常識内に留まる展開に心底ホッとしたりする訳だけど。
ほまオトンさっさと病院に行けよ、この自己憐憫のダボが!
たまたま上映終わりに谷口監督のトークショーもあって、主演の嬉々役の西口千百合がゲストの白石和彌監督に向けた手紙に「エンドロールの最初に載る俳優になる」って別作のオーディションで語ったと聞いて、あっという間にその夢叶えてしまってすげえ子が出てきたなって思ったし、ラストシーンを1日目に決めきれず、翌日の宿題にしたという発言に「豊かだなあ」と答える白石和彌監督もインディペンデント映画の自由さと商業映画の厳しさが見えて面白かったな。
まあ、親がどんだけクソだろうが子供はそれを愛するしかないから毒親がひとりも存在しない世界を祈るしかないけど、物語的にはつまんない世界になっちゃうか。あと次女かわいい。
それではハバナイスムービー!
泣かない
演出がいいので、各シーンで子役を含めて誰も演技してる感じがせず(下手という意味では無い)独特のリアリティがあった。中でもあの抗議に訪れた夫婦との刺々しいやり取りの長回しは見応え充分。
内容は、ストーリーがあって伏線回収して解決、みたいなものではなく、淡々とした情景描写的素材が投げ出されている印象で、困窮家庭の逼迫をベタな演出や熱演で強調してみせたりはしない。いちばん「えらい目」に逢ってる嬉々が泣き言いわず無表情に難局に立ち向かったり、学校でありがちないじめもなく、道を外しそうな者にはそれとなくブレーキがかかるのをみていると、この作品が社会保障制度の不備を告発する社会派大作では無いことがわかる、などと思ってしまう私はきっと意識低いんだろうな。
ベランダで鉢植えを持ち上げた嬉々が呟く「もうちょっとやで」が本人や父親や元担任や友達や妹弟の希望に繋がりますように。
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