劇場公開日 2025年1月24日

「ここは割り切って「トニー・レオン七変化」を愉しむ!」ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件 いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ここは割り切って「トニー・レオン七変化」を愉しむ!

2025年2月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ショートコントのような「トニー・レオン七変化」を満喫する映画でした(笑)。

高級車から降り立つ靴先がまぶしい、白のトニー。小旗を振ってツアコンするトニー。KGBとコサックダンスするトニー。マレーシア国王一家との記念写真にピースサインで収まるトニー。バブリーなメガネフレームを次々とかけ替えるトニー。香港証券取引所で場立ちの連中に胴上げされるトニー。手錠腰鎖で連行されるトニー……(以下略)。
いやはや。

対するアンディ・ラウの方は、家庭も省みず巨悪相手に戦うエリート捜査官。いわば絵に描いたようなキャラ設定のため、一見つかみどころがないトニーの不穏さと比べて魅力が薄く、あきらかに分が悪いですね。

そもそもトニー・レオンとアンディ・ラウがガチンコ勝負した『インファナル・アフェア』の脚本の妙が、ここにはありません。
トニーがワン・イーボーと共演した中国映画『無名』を観た時にも思ったのですが、必要以上に過去と現在を行き来させる話の運び方は、クリストファー・ノーランなどの悪影響じゃないかと。

その結果、両雄対決のワクワクは薄れ、企業犯罪・金融詐欺に次々と手を染め巨万の富を築く男の方が悪目立ちしちゃってます。本作を観てスコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を連想する人が多いのもうなずけます。さらに、相次いで関係者が口封じされてゆく後半のくだりなど、同監督の『カジノ』『グッドフェローズ』も思い出されます。もっともこの2作の持つ凄みは本作にはありませんが。

ラストにしても十数年にわたる捜査の結末がアレではね。実話に基づくとはいえ、カタルシスがなくて「えっ?」と拍子抜け。「悪党には厳罰を!」「死をもってあがなえ」とつい思っちゃうのも、作品全体に「重み」が足りないからでは。
これがスコセッシ作品なら、同様のオチでもナットクできます(たとえば、悪党が証人保護プログラムに守られ、ぬくぬくと生き延びるとかね)。というのも、スコセッシは「それでも人間か。いや、それが人間なんだ」といわんばかりに、クソみたいな人間の生きざまを冷徹に観察し、人間の不可解さを白日の下に晒してくれるから。こうしたダイナミックな人間観察の妙味が本作には欠けてると思うのです。

またCGをフルに使ったショットをこれみよがしに連発するのもどうかと思いました。
たとえば、海上から一望したバブル全盛期の香港の遠景だとか、1隻まるごと爆破される船舶とか。また香港の裏通りの雑踏は『ALWAYS 三丁目の夕日』のようだし、ホワイトボード一面にびっしり記された金額の中から不正な数字が浮かび上がるさまなど、今さら『ビューティフル・マインド』ですか、と思ってしまいました。

ところで、もはや本作の主題歌といってもいい「Can't Take My Eyes Off You」。本作では1981年リリースのカバー・バージョンが劇中およびエンドロールを飾っていて、ディスコ・ブームに浮かれる80年代香港の空気感をあふれさせていました。
この選曲ですが、同じく近作2本のエンドロールに流れたディスコサウンド——アリ・アッバシ監督作『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』 の「Yes Sir, I Can Boogie」(1977リリース)/ブラディ・コーベット監督作『ブルータリスト』の「One for You, One for Me」(1978リリース)——と、はからずも呼応しているのが面白かったです。

以下、追記を。

映画前半でアンディ・ラウが賄賂の相談を持ちかけられ、心が揺らぐシーンがありましたね。あれって本当に揺らいだわけではなく、誘惑にのったフリをしてトニー・レオンの尻尾をつかもうとしたんじゃないかと。その証拠に、トニーはそれに勘づいたのか、急に賄賂の話を引っ込めてしまいます。このシーンの直後に、薄給でカツカツのアンディ・ラウの家庭描写が続くので紛らわしいけどね。いずれにせよ、アレは互いの腹を探りあう2大スターの「顔芸」が漫喫できる名シーンになっていたと思います。

もう一つ。トニーの秘書役のシャーリーン・チョイって、あんなにボリューミーだったっけ?(笑)

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いたりきたり