「幸せってなんだろうなあ」お坊さまと鉄砲 こちさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せってなんだろうなあ
民主主義を知らない国での初選挙の話。
模擬選挙で、主張の違う相手と憎みあえと煽る役人。
選挙の後の未来(支援後の見返り)を信じ、村の大勢とは違う候補を強く推して周囲から浮く男。
男が選挙にのめりこみ、母や村人との心理的解離や疎外感を感じ、選挙なんてないときのほうが幸せだったと言う妻。また妻は役人に、命がけで私たちが選挙権をもとめなかったのは、私たちにそれが必要なかったからだと言う。
ラマの弟子であるタシ師は、仏陀の教えでないなら、なぜ民主制が善であるとわかるのか、と、どこまでもフラットに役人たちに問う。
全編に渡って、それぞれの登場人物の求める幸せや思惑が語られるなか、幸せってなんだろうなあとずっと考えてしまった。
役人や警察などは仕事を達成することが幸せ(目標)で、男は子供の未来のために特定候補が勝って見返りをしてくれる(と見込んでいる)ことが幸せで、妻は選挙なんかしなくても家族が仲良くいたときが幸せだったと言う。
少しずつ、または全く掠りもしないそれぞれの幸せを彼らは思い描いている。
これまでに聞いたこともないやり方(選挙や近代化)で、これから彼らは「幸せ」を擦り合わせなくちゃならない。そして、彼らが今求める幸せは、彼ら自身にとって、本当に善の結果になるのかすらわからない。なぜなら、既知の過去からしか幸せは思い描けないから。
村の中で、家族が仲良くうまくやっていっても1ヶ月に一度のご馳走だけが楽しみの生活以外の生き方があるかもしれない。
でも、外からどう見えようが、彼らが幸せかどうかも彼ら自身にしかわからない。
主義主張が違っても、一見愚かしくても、それぞれの幸せを暴力や争いによることなく、擦り合わせていくしかないんだろうなぁ。望んだ幸せにならなくても。
最後にロンが手に入れたのも、暗喩としては同じものでもあるし。