「造形が素晴らしい」かたつむりのメモワール かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
造形が素晴らしい
造形が素晴らしく、冒頭から見入ってしまった。
アードマン作品が大好きなのもあり、クレイのストップモーションアニメは、それだけで大体好物、あとはストーリー次第です。
全体的に暗くて気が滅入るが、ユーモアがあって救われる。
グレースの独白で話が進み、テンポは悪くないので飽きずに最後まで観ていられた。
未熟児で口蓋裂、出産で母を亡くすなどグレースには生まれた時からマイナス要素てんこ盛りで、いじめられ、生活力はないが陽気で優しい父は目の前で亡くなり、自分を守ってくれる弟ギルバートとは引き離される、ようやく出会った男性はデブ専で太っていればだれでもよいっていう。引け目ばかりでネガティブなのは分かるが、グレースの視点なので描かれ方がずっと「被害者」的、ナレーションが自己憐憫ばかりのようで、あまり良い感じがない。
グレースの心の支えが攻撃の術を持たず、もの言わず常に重荷を背負っている「かたつむり」というのもなんとなく被虐的だし。しょっちゅう泣いているし。
助けてもらうがお返しは「できない」だってアタシは弱くて無知で何もできない、自分のことだけで精一杯よ、って。
こういう人いるんですよね、程度はあるのでしょうがないこともあるが、いつも助けてくれたギルバートだって弱くて何もできないはずだけどあなたを一生懸命守ってくれたじゃないの、って言いたいところはあった。
でも、「自分が浪費していなければ、ギルバートに会いに行く旅費は何回分でもあった、会いに行けた」と気づいて泣きながら反省する部分があって、作者がグレースの思考を全面肯定しているわけじゃないのが分かって物語の見方が変わりました。
ピンキーが最高。
変人だが人生を楽しむことを知っている。実は生まれたころから辛酸をなめてきて到達した「生き方」だったよう。なので人の本質を見抜くし、心の機微を理解して限りなく優しい。
グレースに手を差し伸べてそっと見守る、一緒に人生を楽しむ。他人の目なんかどうでもよろしい、自分の人生だから。これをするには、所有物が多くないほうがいいなと思った。住む家があって庭で作物をつくり、移動には元夫が残したぽんこつバンがある、そしてグレースという相棒がいる、人生最高じゃないの、という生き方。
ピンキーがアルツハイマーになった時、グレースは逃げない。
ベッドに逃避しようとせずに、ピンキーをいたわり面倒をみて、看取る。
いつの間にか、ピンキーに生きていく活力ももらっていたよう。
ピンキーが彼女に遺したものは、クッキー缶のお金だけではなかった。
ギルバートの過酷さに気が滅入る。こんな子供は実際には数えきれないくらいいるんだろう。
そして、ここにもLGBTQ。
時代の要求のせいかと思ったら、監督自身がゲイで、ずっとマイノリティを描いた作品を撮っていたのだった。
ラスト、グレースの作品の上映会の客席で目立っていたイケメンと何かあるのかと思ったら。
ギルバート、生きてるんじゃないかと思ってはいたが、生きていて良かった。あれで終わったら悲惨すぎて嫌になる。しかるべきところに養両親の虐待の数々を訴えたら証拠が続々でてくるだろうし末の弟は証言してくれそう。
また、助けた浮浪者が判事に復帰して今度はグレースを助けてくれたのも、情けは人の為ならず。彼女の自主性を後押ししているよう、人生は捨てたもんじゃない。
人物は「ナイトメア・ビフォークリスマス」に似た感じの画風だが、それ以外の小物や背景が呆れるほど作りこまれていて恐れ入る。細かいところをもっと見たい、それだけでもずっと見ていられます。
共感&コメントありがとうございます。
かばこさんのグレース評どおり、私も当初はグレースを好意的に受け入れられなかったです。
でも、そんなグレースだからこそ、終盤にかけての変容が鮮やかに映ったような気もします。

