劇場公開日 2025年3月14日

「96点/☆4.6」Flow 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 96点/☆4.6

2025年9月24日
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ラトビア出身の新鋭ギンツ・ジルバロディス監督が手掛けた、2024年公開のCGアニメーション。

舞台は大洪水によって大陸が水没した世界。黒猫が故郷を小さな船で離れ、旅の途中でさまざまな動物と出会いながら共に生き抜こうとする姿を描く。

セリフは一切なく、聞こえてくるのは動物たちの鳴き声と自然の音だけ。
言葉を超えた仕草や表情を通じて、「生きること」「共存すること」「死と向き合うこと」の意味を静かに問いかけてくる。

CGは決して洗練されてはいないが、水や光の描写は際立って美しく、まるでドキュメンタリーを思わせる臨場感で観る者を物語へと引き込んでいく。

観終えた瞬間、気づけば涙が止まらなかった。

大洪水に沈む世界を、小さな船で旅し続ける黒猫の姿に、胸を強く締めつけられた。
現実に起こりうる光景を見ているような臨場感があり、思わず前のめりになってしまった。

この作品にはセリフも無く説明も無い。
動物たちは人間のように語りかけることもない。ただ鳴き声と仕草で紡がれていく。
その徹底したシンプルさが、ドキュメンタリーのようなリアルを生み、黒猫と動物たちの出会いや別れが胸に響く。

確かに、CGの粗さやモーションのぎこちなさ、人間の存在が示されない世界観など、説明不足と感じる部分はある。
ゲームのムービーシーンのようだ、と言われればその通りだろう。
だが、動物たちの習性を的確に反映した描写、水面のきらめきや光の柔らかさは圧倒的な美しさを放つ。

黒猫を思わず「守ってあげたい」と感じてしまう感覚は、ペットを飼った経験のある人なら共感できるはず。

物語性より説明を重視する人には掴みどころがないかもしれない。
しかし、この作品が投げかける「生きる」「共存」「死」といった普遍的なテーマは、観る人の数だけ異なる感想になるだろう。

感じ方も考え方も異なるからこそ、世界には争いが絶えない。
だが同時に、違いがあるからこそ、出会いや理解はかけがえのない喜びとなる。

隔たりを越えて分かり合えた瞬間の温かさは、もともとは「違う」と思い込んでいたからこそ強く胸に響く。
本作は、人種や民族を超える大きな力を、動物たちを通して思い出させてくれる。

そして観終えたあと、私はただひたすらに、我が家の猫に会いたくてたまらなかった。

映画感想ドリーチャンネル