「猫を抱き締めたくなる」Flow 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
猫を抱き締めたくなる
第82回ゴールデングローブ、第97回アカデミー賞で受賞を果たしたラトビア作品。
単なる映画好きとしてだけではなく、
猫好きとして、アニメ好きとして期待してました。
鑑賞後の率直な意見として...最高でした!
想像していた内容と違い、とても哲学的で切なさを秘めた傑作。
考察の余地が多々あり、観た人の数だけ解釈がある内容。
私なりの考察と伝えたい事をレビューします。
【大洪水の世界】
ここは多くの方々が指摘するように人類による環境破壊の末路だと思いました。
もしくは高次元存在(神)による天罰。
故にノアの方舟のオマージュを連想する物語。
人類はこの洪水で滅んだようにも思いますが、それ以前に滅んだようにも見える。
【猫】
本作の主人公。私も家で猫と暮らしているので終始、感情移入してました。
爪研ぎやフミフミ、寝起きの伸び等々、猫の動きに凄い拘りを感じました。
猫は表情筋が発達していないので耳や尻尾の動作、瞳孔などで今の気持ちをちゃんと伝わるようにしていたのは素晴らしかったです。
元は家猫だったのか分かりませんが、猫好きだったであろう人間の空き家に住んでおり、そこから旅が始まる。
旅の中で他の生き物に対して仲間意識を持ち、仲間の為に行動する。
道中、何度か海に落ちてか細い声で鳴く姿にハラハラしました。
猫好きとして心臓に悪い...
そんな猫も徐々に水を克服していく。
終盤、超常的な力に吸い込まれる猫と鳥。
何故、鳥だけが選ばれたのか(後述)?
あの光が救済の類なら行動からして猫も選ばれる資格はあったはず。
【カピバラ】
所謂ムードメーカー。
カピバラが最初にいたからこそ動物達は、争わず最後まで旅を続けられたのでしょう。
この子だけは、劇中で全くブレない。
【キツヌザル】
習性でもあるのでしょうが、劇中で人間に最も近い存在。
珍しい物に執着し、特に鏡を気に入る。
自身の投影は、我々人類への警鐘にも思えました。
最後、仲間達から離れて猫の元に来たシーンはグッと来ました。
【犬】
当たり前だが動物にも個性がある。
劇中の犬達の中で唯一、仲間をいたわり合えた白い犬。
【ヘビクイワシ】
猫を守って飛べなくなった鳥。
操舵手として舟を守るリーダー的存在。
終盤、超常的な力によって光へと姿を消してしまう。
【何故、鳥は選ばれたのか?】
道中、犬の仲間達を助ける選択肢がある。
ここが重要な分岐点だったのかもしれない。
人間的な、ドラマ的な価値観で測るならば猫の行動・選択こそが主人公であり、救済されるべきだと思ってしまう。
だからこそあの光は、救済ではなく終わりの光だったと思う。
鳥は傷つき満足に飛べない。
群れにも帰れない。
飛べない鳥の末路は死である。
あの鳥は、どこか諦めがあったのではないか。
天高い山(モチーフはアララト山?)を見た時、鳥は何かを感じ取り飛び立った節がある。
【鯨】
鯨なのか、未知の海洋生物なのか...劇中で何度か姿を現す神秘的な存在。
終盤、再び洪水の兆候が顕れる。
猫は、あの岩山に向かえば助かると思い駆け出す。
しかし道中に水が無く、苦しんでいる鯨と出会う。
ここで猫は気付く。
我々にとって水は命を奪うものだが、
水が無ければ生きていけない生き物もいるのだと。
【結末】
最後、その場に留まる猫。
そんな猫に寄り添う仲間達。
このラストシーンは、心の底から泣きました。
エンドクレジット後、やはり再び洪水の世界が来た描写がありましたが、私は猫達はきっと助かったのだと信じてます。
【総評】
本作に見事な傑作です。
文句の点けようがありません。
動物を擬人化せずに台詞は無く、行動だけで表現した制作陣の手腕に脱帽です。
この世界は、多くの生命が共生して成り立ってます。
私達人類はその円環から離れつつある。
猫達の旅路は、私達にとって忘れていたものを思い出させてくれる。
この星に生きる全ての生命に祝福を。
帰宅後、一緒に暮らしている愛猫を抱っこしました。
※2025年4月10日追記
再度、映画を鑑賞してあの光について別の考えを浮かびました。
大洪水の後、ノアは祭壇を作り神に生贄を捧げたと言う。
ヘビクイワシが光の中に消えた後、水が引いた。
黒猫はヘビクイワシが生贄となり、大洪水が終わったと考えた。
黒猫が最後に駆けだしたのは、自分を犠牲にして仲間を救おうとしたのかも知れない。
しかし偶然ではあったが、自身を助けてくれた鯨が苦しんでいるのを目撃して立ち止まってしまった。
観る度に新しい発見と考察が出来る素晴らしい映画。
本当に黒猫ちゃんが尊い。