劇場公開日 2025年3月14日

「映画に頭まで浸かって猫と一緒に流される。」Flow 薄荷さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映画に頭まで浸かって猫と一緒に流される。

2025年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

難しい

萌える

事前予告やチラシから受けた、「ラトビアのすごい監督が手がけた、動物たちが力を合わせてとんでもないことになった世界を冒険するハートフルストーリー」的な印象のまま視聴しましたが、全く別物でした。動物である彼らの冒険を自分事として共に体験させてくる。この世界そのものを自分で考えさせてくる。自分の内面と向き合わせてくる。内省的で、監督の美学というか、美しさと哲学でぶん殴ってくる、人によってはきっと面倒臭いタイプの映画と思います。

猫ちゃんかわいいねえ、辛いけど頑張ろうねえ、なんて人間様の視点から俯瞰しながら見るつもりでしたが、抗いようのない濁流に猫と一緒に押し流され、ゆっくりと深海に落ちていくそのどうしようもなさに死の恐怖を感じ、嵐の中で海原に放り出されて自分も震え、見知らぬ絶景と日差しに歓喜して、彼らが何も言わないが故に自分が彼らの気持ちを考えてしまい、自分がその場にいる感覚に完全に飲み込まれて、ただただ映画に流され続けました。
そして世界についての謎も、何も説明されないが故にずっと考えてしまいます。唐突のように感じる部分がありますが、そのせいでよりこの映画の深みが増しているように思います。

ギンツ監督の多才さはすごいものだと思いますが、彼の世界観、内面を抉ってくるような静謐さの方がすごい。とても大好きな映画になりました。

あとは蛇足。

映像ですが、大作映画のしっかり予算のかかった現実と見紛うようなリアリティのあるCGではありません。個人的に最も近いなと感じたのが、「ブレスオブザワイルド」で、見ようによっては確かに粗い部分があるし、精細ではありませんが、そんなことがどうでも良くなるくらい美しい。
音楽も、世界観に合わせた、派手さはあまりないが内省的で、サントラ単体で聞いてもエレクトロとして楽しいものです。

薄荷