「監督と同じ立場の者として敬意を表します」どうすればよかったか? harukaさんの映画レビュー(感想・評価)
監督と同じ立場の者として敬意を表します
統合失調症になった監督の姉と、姉に治療を受けさせず家に閉じ込めた両親を20年にわたって記録したドキュメンタリー。
成績優秀だった姉は両親と同じく医者を志すが、医師国家試験を受ける過程で統合失調症を発症、支離滅裂な言動や暴言を繰り返すようになり、占いや謎の学会の活動に傾倒していく。
未だ姉は優秀だと信じ試験を受けさせ続ける父親、互いに責任を押し付け合い姉の病気に向き合わない両親、深入りしてこない親戚、そして、どうにかしたいと願いつつも発言権はなく、自分の人生を前に進めることを優先する弟。
両親が老いて姉の世話ができなくなってからようやく父は弟の意見を受け入れ、姉は治療を受けることになった。しかし母親は認知症になって亡くなり、姉も癌を発症、統合失調症も完治することのないまま父より先にこの世を去る。
残った父親に、弟は20年の記録を作品として公開する考えを伝え、姉に治療を受けさせなかったのはなぜか、そこには恥があったのではないか、そしてどうすればよかったか?と問いかける。父は公開をあっさり了承し、しかし最後まで真剣に向き合うことはなかったように見える。
どうすればよかったか?この問いは両親だけでなく、自分の人生を進める上でこの題材で映画を撮ることを避けて通れなかったという監督自身にも向けられている。
監督と似たような立場を経験した者としては感情移入するところが多すぎてあまりに胸が苦しくなるばかりで、映画やドキュメンタリーとしての質がどうなのかは分からない。でも似た経験がある方にとっては自分の状況を客観視したり整理したりするまたとないきっかけになると思う。これを記録し世に出した監督の決断に敬意を表したい。
観客には監督と同世代と思われる5〜60代の方が多かった。啜り泣いている方も数人。私のような30代やもっと若い世代なら精神疾患への理解も高まっているのだろうが、上の世代は苦しんでいる方が特に多いのだと思った。