「今の時代だからこそ考えさせられる優れたアップデート」サラリーマン金太郎【暁】編 健部伸明さんの映画レビュー(感想・評価)
今の時代だからこそ考えさせられる優れたアップデート
ルールでがんじがらめになり、金儲け主義に走り過ぎた会社組織に、一本気な元ヤンキー漁師をぶちこんで喝を入れる。さらには心地良いまでの力業で、一見解決不能に思える問題を乗り越える策を提示するだけでなく、生き方の指針を見せ、熱量をもって創造的に物事に立ち向かうすべての人々へのエールを贈ってくれる。
そんな本宮ひろ志の原作漫画の魂は、今回の劇場版でもきっちり継承されていた。
この「暁」は誕生篇とはいえ、単行本では3巻分であり、困難な要素の取捨選択が必要である。にもかかわらず、キャラクターと話の展開が純粋に面白かった。複数の端役が整理/再構成され、いずれも魅力的な人物像に仕上がっている。
原作では、金太郎(鈴木伸之)の伴侶となる銀座の高級クラブ《ジャルダン》のママ美鈴(石田ニコル)には、娘・美々がいた。映画では美鈴は独身を謳歌しているようで、そのかわりに母子関係は、金太郎の下宿先で飲み屋の女将・英子(竹島由夏)とその娘・千尋(米倉れいあ)に置き換えられている。金太郎の熱心さをいち早く認める同僚・前田一郎は、教育係・前田一美(影山優香)となり、何もできない金太郎に愛想を尽かすところから、一転その価値を認めるツンデレ・ヒロインに昇華する。そして謎の老女・加代(浅野温子)の登場。そんな金太郎をめぐる女性たちの水面下でのバトルも、むしろなんだか清々しい。
ライバルの鷹司(城田優)の登場時期も早められ、いい意味での緊迫感が続き、一貫性があった。
金太郎と大和会長(榎木孝明)の出逢いから上京までは、漫画より丁寧に描かれていた。
どの変更もメディアの違いによる表現を熟知したプロの作劇であり、田中眞一による脚本によるところも大きかろう。
監督・下山天お得意のマジックアワーの絶景やタイムラプスも効果的で、とにかく画面が美しい。
アクション監督の出口正義による殺陣は、派手ながらも重量感があり痛みが伝わってくる。金太郎の豪快な喧嘩殺法、同僚・田中(前田瑞貴)の空手の打撃、同じく経理担当・石川(川合智己)の柔道一本背負い、裏社会を仕切る李秀麗(文音)の舞うような体さばき等々、きちんとキャラごとに手が異なる。
個人的お気に入りは、金太郎にサラリーマンとしての覚悟を身をもって教える黒川専務役の尾美としのり。青春映画の『転校生』や『さびしんぼう』の頃から気になる、ぼくと同世代の役者である。今や還暦も目の前だというのに、あのころの瑞々しさを失っていない。黒川専務としては、理想を忘れぬ叩き上げで、ときに厳しく、ときに優しく指導する渋さと同時に、チャーミングでお茶目な面を見せてくれるところが実に可愛いらしい。
作品全体として、30年前の原作を現代に移し替えているのだが、それが極めて自然であるため、金太郎という破天荒な人物が本当に存在しているように感じられる。大林組が建設業界の監修をしている部分も大きい。太古の出雲大社を机上再現するなど、数々のロマン溢れる企画を実現させている大林組だけに、業界の現実と夢の境目のラインどりがうまい。
真面目さと人情と情熱が体現されたこの映画は、平成の『釣りバカ日誌』や『寅さん』になりうるポテンシャルをそなえており、続編が楽しみである。
おはようございます。
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今作は、もっと多くの人に観て貰いたいですね。仰るように元気が出ますね。明日からのキビシイ仕事も頑張ろうと思います。では。