「自分が見たいものではなかった。」小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜 (・Θ・)さんの映画レビュー(感想・評価)
自分が見たいものではなかった。
自分の気持ちを濯ぐために書いたので、ご容赦願います。
【好きな点】
・小林さんの貧乳いじりや自虐、女性キャラの過度な露出やお色気シーン、未成年の男性へちょっかいを掛ける描写がほぼない。
この辺りは原作やTVシリーズよりも洗練されて今っぽくなっている。余計なストレスなく見られたし、子供連れでも安心感かと思う。
・イルルがとても魅力的なキャラクターに仕上がっていた。二期以上に良かったと思う。バトルシーンも迫力があり、仲間意識や思いやりが描かれて好感度が上がった。
声優さんの演技もとても良かったが、前任の方に似せるべく気を遣われているように思えた。きっとありのままの演技も素敵だと思うので機会があれば楽しみたい。
・小林幸子氏が参加されたアニメ作品は初めて観たが、歌唱力もさることながら声の演技がここまでとは衝撃だった。威厳に満ちたハリのある声が素晴らしい、映画オリジナルキャラと侮らずぜひ心して鑑賞してほしい。
【好きでも嫌いでもない点】
・作画は安定の京アニと言ったところ。
ただ、TVシリーズがそもそもハイクオリティなので「さすが劇場版、ズバ抜けて」とは感じなかった。バトルシーンとて世界観が日常から非日常へ移り、スケールが壮大になったのは間違いないがTVシリーズと比べて作画が圧倒的かと言えばそうは思わない。
・終盤、ススキの草原でトールが笑顔で振り返るシーンは一期五話の『小林さんがいますから!』のオマージュか?と思うが個人的には五話の方が可愛い。土煙の上がり方はドッジボール試合の方が巧みだったし(バトルの内容としてはだいぶスケールが小さいが……)、エルマのバトルシーンや夏の風景描写などTVシリーズが勝る点も多々ある。
・別作品で恐縮だが、原作もアニメも知らずに観た映画ウ々娘の驚異的な作画に度肝を抜かれ大興奮した身としては、率直に言って「普通」。取り立てて評価できない。
・背景は映画に合わせた結果かもしれないが、どことなくのっぺりと感じる。こちらもTVシリーズのほうが好み。
一部は3DCGらしく、程度の差こそあれ一期からも使われていたはずだが、八年経ってもこのレベルというのは少し不思議に感じる。
【好きではない点】
・TVシリーズ一期で惚れ込んだ、さりげなく映り込む「鳥」を用いた巧妙な心象描写が、良く言えば分かりやすく、悪く言えば稚拙で無粋になっている。初っぱなから「カッコウの托卵」の話をされてすっかり興醒めしてしまい、開始数分から映画全体に対して厳しい目を向けて過ごすことになった。
元からあった卵を押し出して殺し、自分がその巣の雛として居座るカッコウと、日常にドラゴンが転がり込んでくるほっこりはちゃめちゃホームコメディを結びつける感覚は最早おぞましい。喩えとして無難な鳥の習性で言えばジュウシマツの仮母やエナガのヘルパーの話だってあるだろうに、そもそも知らないのだろうか?
ラストのシーンは『カッコウは自分を育ててくれた鳥と同じ種類の鳥に托卵するらしい』『きっと育ててくれた親の優しさを覚えているんだ』といった会話で締められるが、内心「いや元からあった卵はカッコウに殺されるのに? 托卵された側の鳥だってカッコウの卵が入っていること気付いたら巣から放り出して殺すのに?」と不要なところでモヤモヤすることになった。
作り手の自己満足で「カッコウの托卵」を出したかっただけという感じで、一期の踏襲ではないと思いたい。どうかそうであってほしい。
・シリアスなシーンに差し挟まれるギャグ描写がノイズ。笑いが浅く、空気の読めなさを感じる。アニオリの妖精と映画オリジナルの妖精娘は嫌いではないが、バトルシーンにも交ざってくる意味、必要性が全く分からなかった。
・キャラごとの出番の差がかなり大きい、というか原作程度の出番カットすらあり。
一期アニオリで差し挟まれる滝谷さんの優しさや気遣いのシーンが大好きだったので、正直「ランダムの入場特典には出すのに、映画本編では出番をカットするのか?」と憤りを感じた。全てのキャラクターへの愛着を感じない。
・小林&トール以外のバディでの活躍を期待されている方にはオススメできない。タケトくんは全くの不在だが、翔太くんが少し出ることを思えばこちらも多少イルルとの絡みを見せても良かったのでは。
原作の内容や、傍観勢であることを差し引いてもルコアの存在感が薄く、なんとなく「お色気シーンや翔太くんへのちょっかいが無いと見せ場を作れないのか?」と思ってしまった。キャラも関係性も魅力の引き出し方がいまいち。
・立木さんの演技もあってかキムンカムイが原作より「良い奴」っぽい仕上がりだったと思う。カンナ追放も、組織のトップとして責任がある故もっともな言い分に聞こえた。それゆえ、小林さんが他人の家庭、それも考え方も文化も全く違うドラゴンたちの揉め事に勝手に首を突っ込んでいる感が否めず(映画の尺の事情もあるのだろうが)、結局カンナを人間として扱いたいのか、ドラゴンとして扱いたいのかもよく分からない。ただ自分の納得が行くようにしたいだけなのでは?
二期から謎のイケメン小林パワーに任せがちな所があったが、映画は一層「こんなキャラクターだっけ?」と魅力を感じなかった。
・そもそも映画のイントロダクションが何故か『小林さんに惹かれ、集まってきたドラゴンたち。』となっており、メインキャラに見せ場が集中するのは仕方ないにしても、露骨な小林一強で考え方も行動も小林さんが軸。
カメラが切り替わって映し出される個人、バディ、コミュニティを視聴者が一歩引いたところからそっと眺めるような、多角的な話ではなかった。
・カンナが『さみしかった』と泣き出すシーンは「さぁ泣いてください!」と言わんばかりで白けてしまった。それもこれまでさんざん小林さんに養われ、友達に囲まれて幸せに暮らしていたのに、急に?
もう野に帰りなよと思った。
総評すると出来の良い映画で、程度の差こそあれ大抵楽しめると思う。
ただ、自分はどこかでまた、一期のようにアニオリで埋めてでも全員が大切にされて満遍なく個々人に見せ場があることを期待していた。柔らかい優しさと仲の良さ、賑やかさに溢れた作品を味わえることを楽しみにしていた。
二期視聴時以上にはっきりと、もう二度と一期のような物語が手に入らないことを感じて悲しくなった。
映画館では一度も泣けなかったのに帰宅してボロボロ泣いてしまった。言っても詮無いことだとは十分に理解している。
勝手に期待して勝手にガッカリしただけです。楽しんだ方は楽しんだ気持ちを大事にしてください。ガッカリした方は一緒にガッカリしてください。
一期未視聴の方が、もしもいるなら見てください。