劇場公開日 2024年11月8日

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「新しい手法で、世界の文化遺産を、今、記録に残す。」パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0新しい手法で、世界の文化遺産を、今、記録に残す。

2024年11月11日
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鑑賞方法:映画館

とても面白かった。
一曲終わるごとに、僕は感嘆の声を漏らし、拍手喝采したくなった!

モスクワ、ロンドン、そしてパリ。
クラシック・バレエ界の三大巨頭だ。
近年、総合芸術を映像で残そうという取り組みが盛んだ。オペラや、歌舞伎や、このバレエなど。

長野県にはIMAXの上映館が無くて、しかしこの度は一週間限定の特別上映会。関東や中京でも掛かっている映画館が本当に少ない。
仕方がない。特急に乗って都心まで遠征です。

上映時間が近づくと、日比谷公園前の巨大スクリーンをお目当てに、
バレエ好きの人たちが集まってくる。場内は満席です。

ロビーの風景にも特別感が。
目を見張る《立ち姿》があちらこちらにあるのです。スタスタと外また気味に歩くバレリーナとおぼしき女性たち。
2歳、3歳の頃から踊りの鍛錬を受けてきた人たちは、オーラがまるで違う。人の群れの中にあっても、彼女らの立ち姿はこちらの視線を捕まえてしまう。

思えば、
昔、僕もバレエをやっていた事は「リトル・ダンサー」や「マシュー・ボーン」のレビューコメントにも書きましたが、
このバレエの演目「白鳥の湖」は、僕は今までは「断片的なバリエーション」や「ハイライト」は繰り返し見てはいたれど、物語のすべてを「通し」で知るのは今回が初体験だったんですね。

①王宮。団員総出演でのダンス。
「湖」がどこに出てこなくて戸惑う。人間だらけです。こは如何に? 何のこっちゃと先ずは慌てるが(笑)
でもちゃんとそこにはチャイコフスキーが鳴っていて「他の映画作品の予告編ではなく、白鳥の湖のストーリーがもう始まっているのだ」と、ようやく判る。
これは幕の構成としては、役者・踊り手たちの紹介を兼ねての序章。オープニングなのだろう。

②王子は森の中で白鳥のオデットに出会う。
うわーっ!パリ・オペラ座の現在のエトワールは東洋系だったのですね。
二人の様子はもとより、それを囲む周りの白鳥たちの群舞とフォーメーションが度肝を抜かすほど素晴らしい。
クレーンで縦横無尽に撮って回るカメラが、「万華鏡」のように!上空からも白鳥たちを捉えて、観る者をアッと言わせる。
=生の舞台ならば、客席から、つまり真横から観るだけの群舞なら、それは ぐちゃぐちゃに入り乱れた白鳥たちの人混みでしかないだろう。
でもその群舞のシーンが、ドローンのカメラから見おろしたかのような 斬新なマスゲーム展開。

でも、
でもですよ。僕は気付いたのです、
なぜ王子もオデットも、あんなにしかめっ面なんだろう?
幸せな出会いを表すはずの湖のほとりなのに、彼ら二人はぜんぜん幸せそうではない。むしろ眉間にシワを寄せて、不幸そうな苦しみの表情なのです。

③再びシーンは王宮に戻り、母君の見ている前で、王子は舞踏会の中から后候補を探すのだが、脳裏に焼き付いたオデットの事が忘れられない王子様。

バックの壁にオデットの幻影が浮かぶ。
魔法使いは指を2本出して王子を狼狽えさせる。

そこへ魔法の力で黒鳥に変えられたオデットが登場するのですが、
再会を果たした王子のニヤけ顔が、これまたすんごいのですわ(爆笑)
オデットも先ほどとは打って変わり、実に生き生きとして、ハツラツとして、生命を吹き込まれたかのような姿。口角の片方を上げてニヤリと笑いながら、大見得を切って王子と踊る 超魅力的な女子になっている。

ヌレエフ。
あの「ホワイトクロウ」のヌレエフ。
なんと現代的な演出と振り付けだろうかと衝撃でした。

あのね、つまりこういう事なんですよ、
湖のほとりにいた、恐らく貞淑でカマトトで、詰まらない「シリアスな顔」の白鳥なんかよりも、はるかにずっと魅力的な女として黒鳥はこの社会に舞い踊っている。
その黒鳥と一緒にいるときこそ、王子も水を得た魚のように美しく息づいているんです。
“ちょっとくらい悪い付き合いのほうが、人間は本当は幸せなんだねぇ”
って事です。

黒鳥って、実はその存在は、(悪ものではなく) むしろ、マジ素敵ないい娘なのでした。これは僕の確信と結論です。
男は、白い白鳥と黒い黒鳥と、結婚ではどちらを選べば本当に幸せな人生を歩めるのかを、
作られたイメージで決めてしまってはダメなんですよ。
いま眼の前で「人生をこんなにも謳歌している王子と黒鳥」の表情を観ながら、深くそう思った僕でした。

で、ラストは、
「オデットは愛の力で魔力を解かれて王子と めでたしめでたし」なのかと“ありふれた結末”を勝手に思っていたが
結局は「バッドエンド」でびっくり。

スーパー歌舞伎の猿之助よろしく、魔法使いとオデットは宙乗りのままで暗い夜空の彼方に消えて行ったのでした。
王子は霧の中で卒倒。
そこで突然に幕。終わり。
愕然。

クラシックではない“現代劇”を観せられた感慨で一杯でしたね。
本当の幸せとは何か。
まるでブロードウェイ。

以上、興奮冷めやらぬ現場からのレポートでした。

・・・・・・・・・・・・・

「新しい手法で、世界の文化遺産を記録に残す」と、冒頭、レビューのタイトルに付けたけれど、観る観客の側も、今その時点でどういう状況にあり、どんな感性のレシーバーを有していた時代だったのかを、
演じる踊り手と、振付師のコンセプトと、録画の仕方のプロデュースの中に、「ターゲットとして想定されている我々=現代の受け手=観客の状態」も、同時に記録がなされるのだと気付きます。
新しい時代の新人類たちに、2024年の今 残す記録として、このバレエ映画は画期的で、絶品だったのではないだろうか。
つまり、
今のこの時代、
・何が観客から求められていたか
・何が観客にウケていたか
・観客たちはどんなふうに生きていたか
それらも、スクリーンの裏側に見えてくるのです。

前知識ゼロで、お話の筋書きを知らなくても、置いてけぼりにはなりません。この映像作品は生のステージとは異なります。
話の展開に必要な「表情」や「身振り手振り」が、ちゃんとカメラでアップで映るようになっている。
まるでパントマイムのように、演じ手の思いやコトバがこちらに見えてくる。
素人にも飽きさせない工夫がある。

初めてのIMAX劇場体験でした。
大きな四角のスクリーンがそそり立つ館内。
「階段からの転落にご注意下さい」とアナウンスされるように「急傾斜の客席」から見下ろすようにして、白鳥たちの群舞が丁度良い角度で=斜め上から見下ろせるようになっている。この投影技術の設計にも驚きました。

4400円+電車賃と、高額出費でしたが、これは大満足の一日となりましたね。

きりん
琥珀糖さんのコメント
2024年11月19日

ご心配かけてすみません。
元のレビューはサイトに残っています。
コメントの通知や共感の通知が分かりません。
二つに分かれています。
問い合わせフォームからお返事と対処法を教えて頂いたのですが、
どうも提携してたアップルのアカウントを、消してしまったんですね。
なんかネットの操作に疎いんですよ。
このままでもいいかな・・・とか思っています。
もうたくさん再度のフォローも頂いて、
責任も生まれた気がしています。

琥珀糖
琥珀糖さんのコメント
2024年11月19日

こんにちは

上京なさってついにIMAXで「白鳥の湖」を
ご覧になったのですね。
なんと、バッドエンド。そうでしたか?
臨場感溢れるレビュー。
私も会場にいるようでした。

再度のフォローありがとうございます。
ログインに失敗して新規登録してしまいました。
またよろしくお願いします。

琥珀糖
talismanさんのコメント
2024年11月12日

この映画見ていませんがとても共感しました。私もついこの間、上野の東京文化会館でのシュトットガルト・バレエ団の2演目「オネーギン」「椿姫」を見たからです。クランコ振付のオネーギンは本当に好きで何度見ても新しい発見と違いがあって感動します。ノイマイヤーがマルシア・ハイデの為に振付した「椿姫」は初めて見ました。「マノン・レスコー」の舞台を観るシーン、から始まる二重構造でした。いまだ興奮覚めやらず何を書いていいのやら・・・💕

talisman