「香港アクション、ここに極まれり!」トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
香港アクション、ここに極まれり!
初っ端から九龍城砦の大乱闘シーンで始まるが、まずはこのセットが見事である。バラック小屋を集積したような見た目は、さしずめ高層スラム街といった感じで、どこか近未来的な風情さえ漂わせる。そして、そこに住んでいるのは不法移民や貧民層といった訳ありな人々。彼らの生活圏は土着的な匂いを醸し出し、あまり”作られたもの”という感じがしない所が素晴らしい。
もちろんCGで再現している部分もあるだろうが、プロダクションデザインの丁寧な作り込みが作品の世界観を魅力的な物にしている。
こうした独特な背景を生かすも殺すもドラマ次第であるが、本作はそこも上手く作劇されているように思った。世代を超えたギャング同士の抗争を軸に、そこで芽生える熱い友情と凄惨な復讐劇がドラマチックに展開されている。シンプルで王道なストーリーは感情移入がしやすく、勧善懲悪で締めくくられるラストも痛快である。
特に、主人公チャンと九龍城砦の若者ソンヤッ、セイジャイ、サップイーの友情は印象に残った。3人とも夫々に個性的に造形されていて魅力的である。九龍城砦のリーダー、ロンギュンフォンの右腕でイケメンのソンヤッ。九龍城砦の医者で常にマスクをしているミステリアスなセイジャイ。黒社会のボス・虎兄貴の手下でやんちゃ気質なサップイー。よそ者であるチャンを受け入れ、一緒に酒を飲み交わしたり、マージャンをしたり、街のチンピラを退治したり等々。いかにも青春ドラマ然とした交遊が微笑ましく観れた。
一方、彼等の上の世代、ロンギュンフォンにも友情のドラマは用意されている。ロンギュンフォンと義兄弟・秋兄貴との関係は中盤にかけて大きな見どころを作っている。そして、そこに絡んでくるのが主人公チャンの素性である。
その素性については早々に判明してしまい、やや勿体なく感じられたが、それでもドラマを停滞させることなく畳みかけるように次のステージへと繋げていった所は見事だ。いわゆる復讐の連鎖と言えばいいだろうか。過去の遺恨を赦して新しい未来を切り開こうとするロンギュンフォン。その遺恨に固執し復讐を果たそうとする秋兄貴。その対峙が熱く活写されている。
各所のアクションシーンも実に素晴らしい。アクション監督は香港映画界で活躍し続ける日本人・谷垣健治。これまでも斬新なアクションシーンを次々と生み出してきたプロフェッショナルであるが、今回は高層ビルのような九龍城砦の高低を活かした演出が目を引く。特に、クライマックスシーンは縦横無尽に繰り広げられるアクロバティックな格闘の連続に痺れた。
敢えて本作で難を挙げるとすれば後半。物語が一旦落ち着き、時間が3か月後に飛ぶところであろうか…。ここがやや淡泊に映ってしまった。チャンの心中に迫るようなシーンが1クッションあれば自然な流れで観れたかもしれない。
それと、序盤でセイジャイのバックストーリーが少しだけ語られたが、これも結局詳しい所までは分からずじまいである。本筋に深く関わる部分ではないが、何らかのフォローは欲しかったところである。
また、片足を負傷したサップイーの大立ち回り等、幾つか突っ込みを入れたくなる部分もあった。