「まさに名もなき者として生きたボブ・ディラン」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN かなさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに名もなき者として生きたボブ・ディラン
ボブがニューヨークに初めて来た日、彼はずっとリスペクトしていたミュージシャンの見舞いに行く。そこで同じくリスペクトしているミュージシャン、ピートと出会
い親交を深めていく。しかし彼は自分の出自を話さない。
ボブはピートのおかげで初めてニューヨークのステージにあがり歌う。その声と歌詞を聞いてフォークスターであるショーン・バエズが立ち止まって真剣なまなざしで彼を見つめていた。彼は何者かと。
ボブ・ディラン、二十歳。彼の作る歌詞、メロディーに観客は共感していく。彼は二十歳になるまで何を感じ考え生きてきたのかが謎だ。わかっているのは、往年のミュージシャンをリスペクトしていたこと。そして彼の歌は、大勢の人に共感される。ただ彼のメッセージを伝える歌詞とメロディーだけで。
ボブは、シィルビィ、ショーン、二人の女性と付き合う。ただボブは出自についてなにも話さない。ボブは彼女と一緒の時も朝晩構わず曲作りしている。まるで二十四時間、歌詞とメロディーが彼の頭を占拠しているように。そこで二人にはボブの謎がとける。歌を愛し歌に愛されている人間だということを。
彼が歌うシーンはカメラがつねに彼に寄る。まるで彼が横にいて歌っているように。これこそが映画的魅力となり彼の歌に熱狂する観客とともにこちらも興奮する。
ボブは有名になっても決しておごらず、いやむしろ露骨に嫌がる。これも謎だ。フォークというジャンルにとらわれない、新しい音楽のスタイルに自分が考えるように変えていく。人気絶頂の時なぜスタイルを変えるのか、謎だ。
このボブ・ディランの謎を体現したのが、ティモシー・シャラメだ。クールで曲作りに没頭し、新しいチャレンジに貪欲でありつつも、孤独をまとう姿を肉体で表現した。まさに「名もなき者」として生きる姿を。
出自も知れない若者。この映画は、ボブの謎を軸として、曲作り、歌唱シーンから、彼が追い求めていた「名もなき者」として生きる姿を明らかにした。
ラストシーン。ボブはまたミュージシャンの見舞いに来ていた。それが彼のすべてだ。