「ボブ・ディランという残像」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN レントさんの映画レビュー(感想・評価)
ボブ・ディランという残像
ボブ・ディランという名前くらいしか知らず、劇中で流れる曲を聴いて確かに聴いたことあるなあというくらいの感じ。本作はそんな人間が見るのがちょうどよかったのかもしれない。
終始シャラメが素敵だった。ノーヘルでバイクに乗るシーンが特にカッコイイ。アーティストの伝記映画だけどその生い立ちは描かれておらず彼の人となりは不明なまま。劇中でも恋人に自分のことを語らず秘密主義的なところも。本作があえて彼をそのように描いてるとも思える。つかみどころのない謎多き人物であるという感じで。
謎多き人物ボブ・ディラン。自分が型にはめられることを拒み続け、自分が携わってきたフォークミュージックという枠組みからも脱却しようとフォークフェスではロック張りの演奏をしてファンから反感を買う。
型にはまりそこに落ち着けば革命は起こせない。常にその場にいることをよしとしない、常に変わり続けようという彼のミュージシャンとしての生きざまが描かれた作品だった。
彼が過去を語りたがらないのも過去に縛られたくない、自分を型にはめる過去から脱却しようとしていたのかもしれない。
彼はけして人々が作り上げた印象のままでは居続けない、人々が彼に印象を抱いたとたんそこに彼はもういない。人々は彼の残像だけを追い続ける。
彼は常に誰でもない、常に進化を続けようとする彼は確かに誰でもない名もなき者なのかもしれない。
自分はけしてあなたたちが知ってるボブ・ディランのままでい続けることはないのだ。常に自分は変わり続けているのだから。劇中彼がバイクで走るシーンは俺は常にそこにはとどまらない、俺は走り続けるという彼の思いが描かれていたように思う。走り続ける彼に追いつけないファンたちは彼に失望させられるかもしれない。それでも彼は走り続ける。そして恋人のシルヴィも彼を追うことをあきらめ自ら去ってゆく。
人々がけして追いつけない彼は常に時代の先端をひた走る。
最後に彼に多大な影響を与えた恩師ウディ・ガスリーのもとをバイクで走り去るシーンはまさに彼からの脱却を象徴するシーンでジンときた。
共感&コメントありがとうございます。
彼女を守ろうとして殴りつけた男はちょっと責め難いですが・・最初ディランが居る!と声を上げた人はちょっと。ファッキン言ってましたが、ファンだったのか?もう分断してたのか、ありがちですかね。
ロック系のバーにお忍びで行ったら、目を見せてとグラサンを取られた挙句、殴られる・・ファンの身勝手さが暴走する恐怖感が痛々しかったです。新しい黒人彼女の所へ行けないのも辛いですね。