劇場公開日 2025年2月28日

「パラダイム転換の激動の5年間を描く音楽映画」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パラダイム転換の激動の5年間を描く音楽映画

2025年3月2日
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鑑賞方法:映画館

近年、大物歌手の伝記的作品が次々と作られ続けており、本作もその系譜の一つに位置付けられるだろう。しかし、まだ存命中のディランの生涯を描くのではなく、冒頭に述べたわずか5年間に焦点が当てられている。

しかし、この60年代前半の「5年間」というのは、ケネディが大統領に就任し暗殺され、キューバ危機が起こり、公民権運動が盛り上がるような社会の変革期を背景に、ミュージック・シーンでもフォークからロックへの転換が起き、ボブ・ディランという無名の青年の名声が一気に高まる、パラダイム・シフトの時代だとも言える。

アメリカの吟遊詩人と呼ばれるウディ・ガスリー(Woody Guthrie)の "Dusty Old Dust" という曲が流れるのだが、その "So long... It's been good to know you." (それじゃ、また。知り合えて良かった)という歌詞が作品冒頭で流れるときと、終盤でもう一度かかるときでニュアンスが全く異なって聴こえる。まさにその聴こえ方の変化が本作で描いている「時代の変換点の5年」を端的に象徴している気がする。

また、ポスターにも「時代は、変わる」と書かれているが、ボブ・ディランが劇中で歌う "The Times They Are A-Changin'" も、これまで何度も聞いていた際には単なる「社会転換」とだけ思っていたのだが、本作の文脈の中で聴くと、向けられた視線の先がまた違って見えてきた。

世代的にはディランは自分の親世代に近く、ここで描かれる時代は自分が生まれてたばかりの幼少期。なので、ジョーン・バエズとの愛憎などはリアルタイムでは知る由もなく、ディランの楽曲に触れたのもかなり後になってから。

だが、まだ20代のティモシー・シャラメが実際にギターを弾き、歌も歌っていると知り、全く違和感なく見えていたことに驚きを隠せない。Duneを撮りながら砂漠で練習していたのだろうか?😂

Tofu