「MTV・キルド・ザ・フォーク・スター」名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 鉄猫さんの映画レビュー(感想・評価)
MTV・キルド・ザ・フォーク・スター
洋楽を聴き始めた頃、世は既にMTV時代、ボブディランよりデュランデュラン、マイケルジャクソンの「スリラー」のMTV見た?が翌週の学校の話題。思春期になってアコースティックギターを持ったら「弾き語りフォークソング大全集」を片手に時代を遡って吉田拓郎さん岡林信康さんにぶち当たったところあたりでボブディランのフォークソングを知り、そこから同時代のビートルズに移るかMTVに戻ってヴァンヘイレンとかAC/DCに行くか、いずれにしても結局エレキギターを買うはめになって、また時代を行ったり来たりする訳です。当時ボブディランは私にとってはもう“過去の人“のイメージだったでしょうか、フォークソングのMTVがなかった訳じゃないですが、派手な演出もないし話題にはなりにくかったですしあまり興味は湧きませんでした。フォークソングは外国に求めずとも日本に凄く良い曲がいっぱいありますので日本産で十分満足していたのかも知れません。つまり私は“ボブディランにわか“なんです。
偉大なフォーク歌手とは知ってはいても日々聴いていた訳でもないボブディランの伝記的映画、エレキギターを持ち出して顰蹙を買ったと云われるフォークフェスティバルまでの話をうまく構成して良く映像化出来ていたと思います。特に演奏シーンは変なアレンジを加えなかったのが本当に、本当に良かったと思います。がしかし、伝記とはいえ天才の心情を代弁することなど誰にも出来ない訳で、各エピソードそれぞれに感心はすれど共感して感情を揺さぶられることもなく、ボブディランの伝記というよりは翻弄された周辺の人たちの話、“転がる石に苔はつかない“と言う諺に倣えば「転がるディラン石から剥がれた苔とは人間関係の事だったな」という話と見れば面白さもニ割増しです。登場時誰だか判別出来なかったのですがエドワードノートンが良かったですね!演じたピート・シーガーは「ターンターンターン」の作者だそうで、劇中でもやってみて欲しかったですね。
ミュージシャンの伝記的映画は最後の盛り上がりに欠ける映画が多く、この映画も後味の悪さが残ります。成功しているのは映画「ボヘミアン・ラプソディ」のスタジアムライブぐらいでしょうか。そもそも天才ミュージシャンに碌な人間がいないからなのかも知れません。伝記的映画になりそうな残る大物歌手といえばマイケルジャクソンとかスティーヴィーワンダーとかプリンスとかボーイジョージとか、まだまだ山ほどいますが盛り上がれる伝説のイベント持ちとなるとそうそういませんね。となると幾多のミュージシャンが観て泣いたと云われる映画「スパイナルタップ」のようなコメディタッチのモキュメンタリーの手法で実際のミュージシャンの伝記的コメディ映画を制作出来れば凄く面白そうです。ステージでコウモリ食った話とか湖畔のスタジオが火事になった話とかコメディになりそうな話が業界に一杯ありそうですけど、まあ許可してくれるミュージシャンはいなさそうです。(なんと、スパイナルタップの続編が2025年夏に公開されるそうです!)
それはさておき、この作品で伝説を演じるまでに俳優として上り詰めたティモシーシャラメですがボブディランを演じるにはちょっとカッコ良すぎませんかね(苦笑)。もうちょっと市民的な、クタビレ感が出せる俳優さんで良かったような気がします。例えばトムホランドとか、行けなかったかなあ。