劇場公開日 2025年1月17日

敵のレビュー・感想・評価

全235件中、141~160件目を表示

3.0一億総、長塚京三、の世か。だからホラー。

2025年1月22日
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死と生の境目が無い「生きる」系ホラー。
老い故の認知混沌の先に
性愛、暴力、被虐、自死の甘美な衝動。
そこに経済不安、健康不安、夢を阻む亡き妻が。
まんざらでもないかの瀧内河合を夢想する老人に
私も成るか?成るだろう。
気を揉む近親者不在が怖さの味噌。
一億総長塚京三の世か。
支持。

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きねまっきい

4.0長塚京三さんありての力作。

2025年1月22日
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前情報なしで鑑賞。

渡辺儀助氏の毎日のルーティンが良い。
退屈そうにさせていないのが
この役を演じた長塚京三さんの力感のないリアルな
演技力なのだろう。
渡邊儀助(77歳)はフランス文学の元教授、長塚京三さん(79歳)はパリ大学卒業で、偶然なのか?これ以上ない配役であり驚かされた。
老人特有の何ともおぼつかない言葉のやり取りや仕草。でも食卓テーブルの上はフランス仕込みなのか上品な香りがしたからその辺のバランスが良かった。
そして後半に「敵」が現れる。
それは自らの死に対する、或いは老いと孤独に対する恐怖心なのか? 亡くなった妻の言葉に対する反抗心なのか?夢また夢、妄想また妄想。
色々な交錯した心情が痛いほど伝わってきて、でもそれは重くはなく切々と伝わってきてクスッと笑ってしまった。
菅井歩美役の河合優実さんも良かった。
儀助と歩美のBARでの会話は本当に元大学教授と現役学生のそれだった。

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オット

5.0現代設定なのに昭和の敵が襲ってくる不条理劇が面白い

2025年1月22日
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楽しい

知的

 妙にコントラストの強いモノクロ画面に高齢者の一人暮らしが精緻に描かれるうちに、突然異様な光景が挿入され、次第にその頻度が増し、何が現実で何が妄想なのか混然となる不条理劇でしょうね。ちょっとベルイマンの初期作品を思い出す、リアルなのにリアルじゃない、境界線を漂う不思議な感覚が、逆に心地よくもあり実に面白く鑑賞しました。

 長塚京三扮する元大学教授でフランス演劇史の権威だった男、妻には遥か20年も前に先立たれ、それでも講演依頼やら原稿書きで収入もある優雅な1人暮らし。立派な庭付の日本家屋(Netflixの傑作「阿修羅のごとく」の家とそっくり!)に品のある調度品に囲まれ、見事な手さばきで料理もこなす毎日のルーティーンが微に入り細に入り描写される。モノクロなのに舌なめずりしたくなる程のシズル感が画面と音から溢れる。預金も漸減とは言うけれど、金の心配もせず、たまには洒落たバーにも通い、程々の社会とのコンタクトもある暮らしぶりは羨望でもある。

 孤独を感じさせない秘密が徐々に展開される。出版関係での旧友続くグラフィックデザイナー、かつての教え子の女、バーで知り合った女子大生、後継者とも言えるまだ若い准教授、出版社からの新米編集者、そしていよいよ姿を現す亡くなった女房まで、結構賑やかなのです。ことにも瀧内公美扮する教え子には心浮くのが抑えきれない若さを歳に遠慮なく表現する。瀧内は前述の「阿修羅のごとく」でもそうですが、そこに佇むだけで色香がダダ漏れなのが雄弁で、そんな彼女の口から、「終電がなくなってしまうわ」とか「近々夫と離婚します」なんてセリフを聞かされれば浮足立つのもむべなるかな。

 一方で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの河合優実扮する文学に対し真摯な女子大生に余計なお節介まで突き進んでしまう。もっともこれには手痛いしっぺ返しをくらうのですが、折角の河合優実なんですから、後になって「実は・・」なんて再登場するものと思ってましたよ。普通ならそう描くでしょうけれど、本作ではそう描かない所がポイントかも知れない。こうして徐々に周囲の人物が入り組んでゆく過程で、リアルを逸脱する作劇が素晴らしい。

 血便に慌てた病院で恐ろしい診察を受けたり、旧友が唐突に死んだり、無遠慮な編集者が押しかけたりと妄想が拡張してくる。クールな1人暮らしを気取ってはいるけれど、いずれ訪れるであろう死への恐怖がそうさせる。教え子に体を重ねる妄想の裏で、妻に叱責されるのもまた妄想で。極めつけは「北」からの侵略でしょう、なにも北朝鮮とも中国ともロシアとも言ってません。が、家の中にまで押し寄せるゾンビ如くの群れは確かに恐ろしい。そもそも早々に登場する隣家に放置された犬の糞とて敵であったわけで。原作ありきの映画化ですが、この辺りの映像化は難しかったのではないでしょうか、それを見事に観客に疑念を持たせずに曖昧なまま提示出来たのが圧巻です。

 なにより主演の長塚京三が素晴らしい。インテリで、落ち着き払った物腰で、なのに奥底に秘めた欲望と恐怖と真正面から取り組む知性。同世代の名優はいくらでもいるけれど、常識と言う鎧を纏った自然体を思い浮かべれば彼しかいないのかもしれない。チラッと喋るフランス語の発音を聞くだけで、私なんぞ平伏すしかありませんから。

 現代の設定で、MacのPCが鎮座しレーザープリンターがスペースを食う書斎を除けば、殆ど昭和の雰囲気と言うか彼の生きた昭和が匂い立つ。お中元とかで頂き物の石鹸が溜りにたまって放出する。エメロン石鹸って今はもうないはず、ですが石鹸の香りってのがポイントでしょう。庭の井戸の存在感も凄いわけで、「貞子」で出て来やしないか心配してました。遂にXデーが到達し、子供もいないせいで、従弟の子供に遺産が受け継がれることに。ここでまた中島歩が登場し、いよいよもって前述の「阿修羅のごとく」と意識が被って来る。でもそれもまた味わい深いのですよ、美人4姉妹からは馬鹿にされそうですが。

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クニオ

4.0老人の日常を見ているだけなのに、なぜか退屈しない不思議な映画でした。

2025年1月22日
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老人の日常を見ているだけなのに、なぜか退屈しない不思議な映画でした。

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blue

5.0バルザック!

2025年1月22日
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ただならぬ緊張感。吉田大八監督、前作はイマイチでしたが、今作は拍手喝采です。このような作家性の高い作品がどんどん生まれ、国内外で高く評価されることを強く望みます。
平日の昼間とあって、映画館は長塚京三さん世代で8割方埋まっていたのですが、上映中は「ガサゴソ、ピカピカ、ブルブル」と賑やかで、図らずも「老い」というテーマをよりリアルに感じてしまいました(笑)。
それにしても、瀧内公美さんのエロさはモノクロだとさらに際立ちますね。京三先生の気持ちが解ってしまう自分は既に老人なのかも知れません。

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ハチ

4.0長塚京三の所作を観る。それだけでも僥倖

2025年1月22日
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役所広司でも堤真一でも中井貴一でもない。
日本にはこういうかけがえのない役者が居るのだ、と心から思った作品。

蛇足だが。
こんなビッグな役者と軽やかにやり取りする河合優実の存在感はやはりハンパない。

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LukeRacewalker

4.0じわじわ

2025年1月22日
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悲しい

来ますねぇ〜雨の中の慾情と同じお話で、どこからが妄想で、どこまでが現実?老境の仏文教授が主人公でモノクロなので、どぎつさは大分薄味に。
せん妄、認知なんでしょうね、段々食事にも手を掛けなくなる。シャワーシーン、正直見たくなかった。
思わせぶりな若い二人は適役でした。
バルザック!最後噴き出しそうでした。

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トミー

3.5「敵」とは?

2025年1月22日
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「敵」というタイトル。意味深だ。
自分も老いを意識しなければならない年齢になって、この主人公の感じる恐怖が少しはわかる。
「死」を意識して、いつ死が来るかを計算して、達観を演じるが、生理的には恐怖から逃れる事は出来ない。
相反して「孤独」の怖さ。だからこそ、未だ性も求める。

監督は僕より少し上の世代。原作者は言わずもがな。僕はまだ到達していないところまで描いている。

#敵

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naichin

3.5老いによる錯乱を描いているのかも

2025年1月21日
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原作は未読or積読で鑑賞。
(筒井さんの小説は、一通り高校時代以降1990年代半ばまで読んだはずだが、これは2000年以降発売かな?)
原作への忠実度や、文章から得られるはずの内容の解釈と、映画を観ての感想が合っているかはわからないが、自分の印象的にはアンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』を思い出すような作品でした。
自らを律して清貧を貫き、日々坦々と生きている矍鑠とした元大学教授の老人が、認知症になっていくのかどんどん現実と夢の境が曖昧になっていき、理性で封じていた様々な欲望(特に性欲や征服欲)が押さえられなくなり、妄想と幻覚に苛まれ、本人の視点で錯乱していく様を描いたように見えました。

自分も、あと10~15年もするとこの域に入ってくるのではないか(4~50代で発症する若年性の病気もありえるし)、という不安を搔き立てられて、変な焦燥感を抱く羽目に。

作中の「敵」の存在が、ネトウヨやパヨクと言われる連中の語る妄想みたいで、作品として「今という時代に合ってる」と思いました。
また、長塚京三さんという配役ゆえの説得力というか。
若い頃は厳格で清潔だっただが、お年を召されてスケベ爺になっていく姿にものすごい説得力がありました。

一般的に面白いかどうかというと微妙だったのですが、映画祭など評論家系へ向けてはかなり受けそうな仕上がりで、昨年の東京国際映画祭の受賞結果はなるほどと思いました。

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コージィ日本犬

3.0幻想

Nさん
2025年1月21日
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結構とっちらかっていて難しい。後半はもはやほぼ幻想のような。不思議な世界。白黒はなんか目に優しくて雰囲気出て意外と悪くないかも。
俺も河合ちゃんになら300万託すかもしれない、笑。

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N

4.0夫に先立たれた妻が主人公なら、タイトルは…。

2025年1月21日
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怖い

知的

難しい

最多の世帯形態は単身世帯で、3割を超える現在。
「敵」は、ひとり暮らしの元大学教授 儀助の生活を描く、白黒映画。
原作者の筒井康隆さんのSF作品が好きで、侵略モノかなと思って観に行ったら、思っていたのと全く違ったけれど、これはこれで面白かったー!

儀助は、妻 信子亡き後、美しいけれど高齢者には住みにくそうな日本家屋でひとり暮らしをしている。
儀助は日々丁寧に暮らし、元教え子 靖子などが仕事がらみながらも訪ねてくる。
若く美しい靖子のために、儀助がこじゃれたフランス料理を頑張って作る姿は、微笑ましかった。
やはり、手の込んだ料理は、誰かのためにでないと作らないよね。

冷静に考えれば、70代の男性は、バー夜間飛行のスタッフの女子大生 歩美のように、恋愛対象ではなく、ATMのようなもの。
けれど、その辺が分からないところが老い、なのだろうか。

信子と靖子が、儀助の妄想の中でケンカするシーンがあるが、それは彼の願望だろう。
私が信子なら、財産分与をきっちりして、喜んで靖子に譲るけれど。
儀助のかわいく愚かな面に、笑ってしまった。

儀助は、何も肩書のないひとりの高齢者である自分ときちんと向き合わない。
意識も環境も、今の自分に合う形にアップデートすることなく、遺産相続人に指定した甥にさえ、できるだけ現状を維持することを望む。
彼は、死ぬその時まで、人生の最盛期の残り香を手離したくないと思っていたのだろう。
だから、「敵」の幻想におびえていたのかもしれない。

もし、信子が儀助を見送り、この家にひとり残っていたなら、どんな話になっていただろう。
屋敷や蔵書を売り払って、そのお金で立地の良い50㎡くらいの新築マンションを購入し、日々快適に暮らしていたのではないだろうか。
友達と旅行に行ったり、チョコザップ行ったり、エステで若返ったり。
タイトルは何になるだろう…「味方」?

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のりたまちび

4.0筒井康隆は学生の頃はまった時期があり

Mさん
2025年1月21日
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特に新潮文庫のものはほとんど読んだと思うのだが、この「敵」については全く覚えていない。すっかり忘れてしまったのか、あるいは本当に読んでないのか。
(小説での設定は覚えていないが)主人公が大学を退官した年配の人であったため、ただの妄想みたいに見えてしまったのが残念。
元々のこの「敵」は抽象的な意味が大きいのだろうと思うのだが、今や具体的な国名が思い浮かんでしまう。
ある大きな組織(?)のトップが昨日交代したが、これが世界の終わりの始まりにならなければよいな。

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M

4.0白黒の世界に襲われたのは

2025年1月21日
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原作未読。

モノクロの映像は先入観でどうしても古きもの、と感じてしまう。そこで使われる家電は現代の物だ。一方でやかん、ホウキの登場。私の頭の中で時間軸が混乱する。

この時点で映画の作り手達に囚われてしまったのではないか、と思う。

公式サイトには渡辺(長塚京三)の生活の説明があるが、どこからが現実でどこからが夢なのか分からなくなってくる。身も蓋もない言い方だが全てが渡辺の夢か、もしかしたら認知症が渡辺に見せる世界なのかとすら考えてしまった。

でもここまでが現実、ここからは虚構とはっきりさせず交互が自然に、難なく繰り広げられる感覚。やはり私は術中にはまってしまったようだ。

敵。その正体は分からない。私にとってはこの白黒の世界が敵になって襲ってきたのかもしれない。

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豆之介

4.0これって…

2025年1月21日
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端正に撮られてるし、大好きな長塚京三氏の主演で彼らしいインテリの役だし、脇を固める役者陣も大好きな人ばかりだし、飯島奈美さんのフード映画でもあり、と好きな要素しかないと思うんだけど…これって面白いのかな…?
考えてみると、主人公の生活と人間関係から既に違和感とか異物要素はあって、その延長線上で充分展開していけるのに何故「敵」という要素が必要なのか、どういう役割を担うのか、がちょっとピンとこなかった…
残念ながら原作未読のため、それが原作由来なのかは判断できないが…

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ぱんちょ

3.0身につまされた

2025年1月21日
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年配の人が見ると凹むかも
若い人なら筒井康隆作品だから素直にうなづけるかな
しかし美味そうだった食卓

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れこほた

3.5集団自◯なんて、あっかんべーだ

2025年1月21日
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悲しい

難しい

現実と妄想が判然としない世界にひとり古老の元大学教授が生を紡ぐ物語
ここには忖度する者もいないし、裸の老醜を晒したくないプライドがあるので、無限地獄のようだろう

街を歩くと一様に枯れた老人の孤独な姿を見ることが多くなった少子高齢化日本の今の姿

初老になる私にとって、痛い場面も続くが、真っ直ぐ前を向いて歩きを続けようと思った

彼の収支の現実も気になったが、原作にははっきりと書かれている その額からみればなんとでも再生しようと思えば出来る額である

ここは敵は自分にあるという踏ん張りは出来なかったものだろうか?切にそれを思った

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ソルト

3.5「敵」が来る

2025年1月21日
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前半は、妻を亡くし一人暮らしの元大学教授の日常を、丁寧に描写。
ところが、彼のパソコンに、「敵が北からくる」という謎のメッセージが現われたあたりから、妄想と現実が入り混じる不穏な展開に。
長塚京三の演技、瀧内公美の艶っぽさなどで、モノクロ映像にもかかわらず、面白く鑑賞した。

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ファランドル

5.0「敵」とは「老いの恐怖」のメタファー??

2025年1月21日
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笑える

怖い

知的

予告編を見たら原作が読みたくなり、読み終えてからの映画鑑賞でした。
「毎月の生活費から年金、講演料等の収入を差し引いた額で、今の貯金額を割れば、キミもXデイが分かるよ。」というセリフがサラッと出てきます。「Xデイが分かれば緊張して日々が過ごせる。」
なるほどなんだけど、本人は何か怖いものがある。ラストシーンは原作とは異なるかと思いましたが、銃声とおぼしき音が聴こえました。エッ、そうなのか。だとしたら、それは怖いぞ。という映画でした。

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C.B.

4.5名優「長塚京三」という罠

2025年1月21日
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まず先に言っておきたいことは、「バルザック」はずるい。
なんというネーミングセンス。
思わず吹き出してしまったじゃないか。

難解映画の部類に属すると思う。
個人的にそういう映画はあまり好みではない。
「どういうこと?」な場面は多くあった。
でも、そういう難解な部分を抜きにしても、この映画は凄く面白いと感じた。

日本の暮らしをモノクロ画面で描かれると、最初はどうしても昭和とかの一昔前の日常を描いたものという錯覚に陥ってしまう(主演が長塚京三なことも影響していると思う)。
「この映画は今の日本が舞台なんだ」と自分に言い聞かせて納得させるのに少し時間がかかってしまった。
現代日本の生活をモノクロで描いた作品って珍しいと思う。

この映画、とにかく「…なんだ、夢か」な展開が多い。
後半は特に頻発。
それを常時モノクロで描かれるせいで、どこまでが現実でどこまでが夢なのか、マジでわからなくなった。
こんな映画体験は初めてかもしれない。
映画が終わる頃には、自分が生きているこの現実も実は夢なのでは?とチラッと思ってしまった。
そんなことを思ったのは自分だけかもしれないが…

非現実なことが起きて、そこで長塚京三演じる儀助が目を覚まして「…なんだ、夢か」となるわけだが、夢として描かれていた場面は全て架空の話ということにしてしまっていいのだろうか?
それにしては、非現実なことが起こる直前までの出来事がやけにリアルに感じた。
夢として描かれた場面は実は現実世界で本当に起きた出来事であり、その現実を受け止めるのがあまりにも辛すぎるため、儀助が夢の世界の話ということにしてしまったのではないだろうか。
個人的にそう考えるとしっくりくる。
見当違いかもしれないけど…

見方によっては「陰謀論に囚われた男」にも見えるし、「認知症を患った男」にも見えるのは面白い。

前半は2023年12月公開の『PERFECT DAYS』っぽいと思った。
ダンディな独身男性の丁寧な暮らしが淡々と描かれていく作り。
『PERFECT DAYS』では、役所広司が仕事終わりにいつも居酒屋に行って食事する日々が綴られ多幸感に包まれていたが、儀助は自炊派。
調理して食べるシーンがやたら出てくるが、どの料理もプロ級の腕前でどれも美味しそう。
観ながら頭の中に『孤独のグルメ』というワードが出てきた。

一方、『PERFECT DAYS』と最も大きく違う点は、主人公の女性への執着(特に若い女性への)。
『PERFECT DAYS』の役所広司は女性に振り回されるだけの男だったが、本作は真逆。
話が進むにつれ、初老の男が若い女性に浮かれる話になっていくが、これが観ててきつかった。
二回り以上歳が離れた女子大生を家に招くことになり、儀助が家のPCで様々な料理を検索しながら何の料理を振る舞うかを思案する場面が、痛々しくて居た堪れない気持ちになった。
男の、他人には勘付かれたくない卑しい面を第三者がこっそり覗き見しているような作りになっていて、同じ男として、映画を観ながら何度も「ひえー」となってしまった。

この映画は他にもいろいろな今現在の社会問題が内包されているように感じた。
まず、高齢者の「老後の資金」問題。
儀助が、社会に迷惑がかかるから長生きを望まない考えを語る場面で、2022年公開の映画『PLAN 75』のことを思い出し、悲しい気持ちになった。
また、近年は大学の学費が右肩上がりに値上がりしていて、学生が学費を払えず学業を犠牲にしてバイトに励む場面が本作には出てくるが、これを高齢者のお金に関する問題と一緒に描いてしまうと、まるで高齢者のせいで若者が犠牲になっているような構造に見えてしまい、その作りには疑問を感じた。

この映画で個人的に一番凄いと思ったところは、終盤、井戸の前で滝内公美が言い放つ言葉。
今世間を賑わしているフジテレビ問題にも通じるような、現代日本(日本に限らないけど)の深刻な社会問題にぶっ刺さる一言になっていて、震えた。
1998年に発表された筒井康隆の小説を、わざわざ2025年に映画化したのはこのためだったのか。
儀助を紳士的な長塚京三が演じていることで何も問題ないように見えてしまっているが、独身男性が年の離れた元教え子の女性を家に招いている時点で、違和感を覚えるべきだった。

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おきらく