「原作読まずに観るべきかも」敵 るなさんの映画レビュー(感想・評価)
原作読まずに観るべきかも
原作有り映画の場合、読んでから観ると未読で観る場合とは違う印象を受けるが今回は原作読破しての鑑賞。批判的な視点から検討すると、いくつかの問題点が浮かび上がります。まず、物語の展開において、主人公が「敵」の存在に怯える過程が描かれますが、その恐怖の根拠や「敵」の正体が曖昧なまま進行するため、観客にとって理解しづらい部分があります。この曖昧さは、観客の共感や感情移入を妨げ、物語への没入感を損なう要因となっています。
さらに、主人公の心理描写に焦点を当てるあまり、周囲のキャラクターの描写が浅く、彼らの行動や動機が十分に掘り下げられていません。特に、大学の教え子やバーで出会う大学生など、主人公と関わる人物たちの背景や内面が描かれないため、物語全体の厚みやリアリティが欠けていると感じられます。
演出面においても、吉田監督の独特なスタイルが際立っていますが、一部のシーンでは過剰な演出や象徴的な映像表現が観客にとって理解しづらく、物語の流れを妨げる要因となっています。これらの演出は、作品のテーマやメッセージを伝える上で効果的である一方、過度に抽象的であるため、一部の観客には難解に映る可能性があります。原作では性的描写が肝であるがこの点も表現が物足りない。今映画やドラマの現場でインティマシーコーディネーターの導入が進み表現が難しいのは理解するが女性の肌の露出が少なすぎるしエロティックさも感じない。意味のない裸は必要ないが演出で工夫出来た筈。
また、原作小説の持つ独特の文体やユーモアが映画化の過程で十分に再現されておらず、原作ファンにとっては物足りなさを感じる部分があります。特に、筒井康隆の作品特有の風刺や皮肉が薄まり、物語の深みや多層性が損なわれている気がした。
総じて、『敵』は高い評価を受ける一方で、物語の曖昧さやキャラクター描写の浅さ、過剰な演出などの課題が見受けられた。
小津を意識したらしいが敢えてモノクロにした必然性も感じなかった。
余談ですが原作読んで思ったのは主人公は幻覚、幻聴、悪夢などの症状からレビー小体型認知症だと思う。私の死んだ父親がそうでした。生きている間は異常な行動言動に随分悩まされました。