「ナポリタンかと思ったら、オムライスだった件。」スピーク・ノー・イーブル 異常な家族 ガッキーさんの映画レビュー(感想・評価)
ナポリタンかと思ったら、オムライスだった件。
彗星の如く表れ、映画ファンの心に強烈なトラウマを植え付けたデンマーク映画「胸騒ぎ」のハリウッドリメイク版。
(「胸騒ぎ」は既に鑑賞済みなので、そのていでレビューします。)
何が素晴らしいって、このキャスティングである。
なんと言っても相手の一家の夫パトリック役のジェームズ・マカボイ。
オリジナル版よりも威圧感が大幅に増しており、あのいかにも典型的なマッチョイズムを思わせるムキムキの肉体がすごい。
ベン役のスクート・マクネイリーは、
「アフターマス」や「アルゴ」のように、常に悩みを抱えて葛藤に苦しめられる役柄をやらせると輝く俳優だ。
「モンスターズ/地球外生命体」なんかもそうだった。(ちなみにそのヒロイン役だった女優がリアルの奥方である)
キアラ役のアシュリン・フランシオーシは、どこかで見たことがあると思ったら、これまたある意味でのトラウマ映画であるのあの主演の人ではないか。
あの時は黒髪だったので、全く気がつかなかった。
「ナイチンゲール」では、徹底的なまでに迫害と不幸を受ける女性の役だったので、その辺を鑑みると、また、本作での役柄が違ったように思えてこないだろうか。
ルイーズ役のも、同じくどこかで見たことがあると思ったら、
「ブレードランナー 2049」や「ターミネーター:ニュー・フェイト」のあの人ではないか。
個人的には、シャーリー・セロン、ロザムンド・パイク、そしてマッケンジー・デイヴィスは、三大強キャラ女優だと思っているので、
即ちマッケンジー・デイヴィスが、ただの弱っちい役で終わるはずがないのである。
キャスティングの妙がこれでもかと炸裂している。見事なキャスティングの映画だった。
子役たちの演技も素晴らしかった。
特にアントン役の子はこれが演技初挑戦だと言うのだから、末恐ろしいとしか言いようがない。
賛否両論な点として、オリジナル版から別物に変わっちゃってるじゃんと、不満に感じてしまう人の気持ちは分からんでもない。
しかもながらよく見ると、なんとこれがいい意味でも大胆に変わっているではないか。
列挙すると、
パティがオリジナル版よりもガサツさ横暴さが増している。
出会の時の椅子を引き摺って持って行ったり、豪快にプールに飛び込む。
大音量の音楽で部屋で踊る、バイクで街中を危険運転し、あまつさえ知り合ったばかりの娘まで、しかもノーヘルで乗せる。
無理矢理、再会の約束を取り付けたり、「頭ガチガチか」 、暖炉の香りがする香水(?)を「暖炉の横に置こう」など奥さんに平気で失言をする。
かと思えば、ベンが苦手な知人をあしらうなどよりズル賢くなっている。
キャンプに行った際にベンの前で勝手に首マッサージをしたり(ブランコのシーンもある)、水遊びの際に脱ぐことを強要する。しかも息子は泳げない。車の運転もより荒い。
レストランでの魚は食べられる会話の後に、淫靡な会話と生々しいアダルトジョークがある。奢りのシーンも、若干強制感が増しているようにも見える。
例の地獄のダンスシーンの前の、よその子にしつけをしたシーンは同じだが、それを威圧するように謝罪させるなどブラッシュアップさが見受けられる。
個人的に好きなのは、実は医者と言うのは…のシーン。オリジナル版にもあったが、こちらは更にもう一捻りが効いており、より観客を惑わすようなものになっている。
キアラのある過去(娘が…)も同様だ。
あと、部屋を覗いているシーンは素で怖かった(笑)
他に完全なオリジナルシーンで好きなのは、
ある理由で物置小屋に修理道具を取りにパティとベンが2人っきりになるという、狭い空間で嫌な相手と二人っきりになる恐怖。しかもパティが持っている道具。監督のコメンタリーでこのシーンは 「グッド・フェローズ」のロバート・デニーロのシーンを参考にしたんだとか。
次に、ある理由でハシゴを使って高所に上がるシーン。これまた警戒している相手によりによって、後ろを取られるという恐怖、しかも自身は危険で不安定な位置にいる。まぁ恐怖演出としてはベタっちゃベタではあるが、これも効果的だ。
なによりこのハシゴがさりげなく伏線になっているなど、ストーリーは上手くよくできている。
伏線といえば、自家製の酒、呼吸アプリ、キツネ狩りもそうだろう。
また、ベンに関しても大幅な肉付けがなされている。
失業中という引け目、男性性の欠如のせいで挙句に妻はある失態まで犯されてしまっている。そこにパティが付け込んでくるのがまた嫌らしい。
ルイーズも、例のベジタリアンなのに…のシーンは同じだが、糸ようじのシーンは新しいシーンだし、
シーツの汚れ、ドライヤー など、より神経質さが強調されている。
そして実質的な主人公とも言えるアントン。
劇中で様々な活躍を見せている。
かくれんぼで遊んでいる時に引き出しの中のある物を見せる、謎のメモで色々と伝えようとするなど。
鍵のシーンは、ちょっとしたサスペンスになっているのも面白い。
特に体を見せるシーンは、のちの人形紛失の、フックになっているのもうまい。
そしてこのリメイク版の最大の特徴である、後半の大幅な改変展開。
そもそも“種明かし”が早い時点で、オリジナル版を見た人はあれ?と絶対思っただろうし、
まさか脱出スリラーに変容するとは夢にも思わなかっただろう。
3方向から狙われる、しかも武器ない、子供もいるという明らかに不利な状況に加えて、
ちょっとした密室での恐怖のかくれんぼの攻防戦になっているのが面白い。
そして、オリジナル版で印象を刻みつけられた「石」 。
実はこのリメイク版でもとあるシーンで…という、
ブラッシュアップがそこかしこに見受けられる理想的なリメイクになっていたと思う。
ナポリタンかと思ったらオムライスだったのような、似て非なるが固有のものを感じるリメイクだったと思う。
ということで、
胸騒ぎ、スピークノーイーブル、連続で観るとより違いが明確に分かって面白いです。
ちなみに尺は110分と、オリジナル版より若干長い。
あと、予告編は3分もの長さですが、大幅にネタバレ要素満載なので絶対に見ない方がいい。
ああいうセンスのかけらもない予告編には辟易する。