劇場公開日 2024年11月29日

「スイスの絶景と自立した美しい中年女性の物語」山逢いのホテルで ノンタさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スイスの絶景と自立した美しい中年女性の物語

2024年12月30日
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鑑賞方法:映画館

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『山逢いのホテルで』を観て、30年以上前に観た『仕立て屋の恋』(パトリス・ルコント監督)を思い出しました。どちらも「日常を揺さぶる出来事」によって主人公の心が大きく動かされる物語。でも、描き方やテーマには対照的な魅力があります。

『仕立て屋の恋』では、孤独な仕立て屋の男性が、隣人女性に恋心を抱きつつも、その思いを自分の中だけに閉じ込めていました。彼の風采の上がらなさが、人生の行き詰まりや叶わぬ思いを象徴していました。

一方、『山逢いのホテルで』の主人公クローディーヌは、自立した強い女性です。障害のある息子を育てながら仕立て屋の仕事に誇りを持ち、日々を淡々と生きていますが、恋に落ちたことで心に迷いが生まれます。彼女の揺れ動く姿には、別の人生の可能性に惹かれながら、今の生活も捨てられない切なさが滲んでいました。結局、誰もが人生では一つの道しか選べない……当たり前だけど残酷なその真実を突きつけられる映画でもありました。

スイスの壮大な山あいの村とダム湖の美しい映像が、クローディーヌの揺れ動く心情を引き立てています。映像美だけでも十分に見る価値がありますが、女性としての欲望と母親としての献身との間で揺れる主人公の姿にこそ、映画の真髄があります。

『仕立て屋の恋』と同じ「仕立て屋」を主人公に据えた作品ですが、対照的な視点とテーマで描かれた2つの映画。どちらも人生の選択や孤独を考えさせられる、静かで力強い作品でした。

ノンタ