「ラストの決断はタイトルに反するけど、内地信仰に待ったをかけたかったのかなあ」STEP OUT にーにーのニライカナイ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストの決断はタイトルに反するけど、内地信仰に待ったをかけたかったのかなあ
2025.3.18 MOVIX京都
2025年の日本映画(96分、G)
ダンサーを目指す若者の才能と選択を描いた青春映画
監督は堤幸彦
脚本は谷口純一郎
タイトルの「ニライカナイ」は、沖縄の伝統的な概念で、海の彼方にある神々が住む理想郷などの意味する言葉
「にーにー」は沖縄の方言で「お兄ちゃん」という意味
「STEP OUT」は直訳すると「家を出る」という意味
物語の舞台は、沖縄のコザ地域
そこに住む高校生(中学生かも)の踊(Soul)は、ダンススクールに通うリサ(伊波れいり)のことが好きで、一緒にダンスを踊りたいと考えていた
SNSなどを見て、見まねで練習するものの、まったく上達する気配はなかった
踊には小学校に通う妹・舞(又吉伶音)がいて、シングルマザーの母・朱音(仲間由紀恵)のサポートとして、妹の面倒や家事手伝いをさせられていた
ある日のこと、ダンス教室のチラシに気づいた朱音は、レッスン代を踊に渡した
踊は教室の練習に参加するものの、レベルの違いにまったくついていけない
2日で挫折を味わってしまうものの、ダンスへの想いというものはそう簡単には捨てきれなかった
物語は、地元のヤンキーのトップ・謝花(津波竜斗)に絡まれた際に、ダンスを披露するところから動き出す
いつも以上に軽く踊れた踊は、ダンスの楽しみを思い出し、再び教室に通うようになった
そして、リサとペアダンスを組めるほどに成長し、リサとの仲も急接近してしまうのである
映画は、よくあるタイプの青春ダンス映画で、大会に向かって努力する中で、いろんなものが障害となってしまう様子を描いていく
王道路線ならば、オーディションには強い相手がいて、ガチのダンスバトルになるというものだが、本作の場合はカタルシスが迫る方向には動いていかない
むしろ、「それで良いのか、この映画」という「一番やったらあかん系のエンディング」をドヤ顔で披露していた
タイトルが「家を出る〜兄の理想郷」という感じの意味なのに、「現状維持でOK」という結論に至るのは意味不明としか言いようがなかった
「え? マジ?」という感じの結論で、「やめるな」といった謝花の思いとか、「俺たちの夢なんだ」とまで言った友人とか、「にーにーがいなくても大丈夫」とまで言った妹とか、全ての想いを蔑ろにして否定するのは無茶としか言いようがない
何を思ってこのエンディングになったのかはわからないが、夢や想いを潰された友人やヤンキーがどのように接してくるかもわからないし、前よりも状況は悪化するだけだろう
ニライカナイはここにある、みたいなカッコ良い風のセリフで締めているが、傍から見ていると、「東京行くの怖くなっただけやん」みたいにしか見えない
オーディションで負けた人、主催者、彼のダンスに何かを見た人などの「想い」よりも家族愛が強いということなのかもしれないが、それでも行かないことの弊害の方が強いんじゃないかと感じた
いずれにせよ、若者向けのダンス映画として面白いのかは微妙で、ダンスの参考になるような蘊蓄とかテクニックの話もないし、オーディションの規模とかもよくわからない
親父が帰ってきたと誤認させるシナリオも意味不明で、それなのに女の顔をしている母親というのも奇妙に思えた
本作は仲間由紀恵と堤幸彦のネームバリューで資金集めをしようとしたのかもしれないが、内容がアレなので口コミで広がりようがないと思う
沖縄の若者に「俺たちには何もない」「お前が夢だ」と言わせるのもどうかと思うし、それを無碍に扱う流れも最悪としか思えない
なので、根本から何を描くのかを練り直して、それに即したシナリオを作り直して取り直さないと、無駄な黒歴史を生んだだけになってしまうのは残念だなあと感じた