劇場公開日 2025年1月10日

「一見の価値ある音楽ドキュメンタリー」シンペイ 歌こそすべて 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0一見の価値ある音楽ドキュメンタリー

2025年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 面白い流行の映画を望む人には不向きだと思います。音楽なら童謡・唱歌でも愛せる人は一見の価値があるかもしれません。私は専門家ではありませんが、音楽史の一端を解説して頂いた、そんな映画だったと思います。
「カチューシャの唄」に関する「ララ」挿入のエピソードは、(勝手に紹介させていただきますが)YouTubeで活躍されている音楽評論家の「みの氏」が著作された「にほんのうた 音楽と楽器と芸能にまつわる邦楽通史」にも「囃子詞にヒントを得たもの」と解説されていて、無論、それも更なる専門家の方から習得した知識かも知れません。そうした現代の私達からすれば何気ないことが、一つ一つ重要な資産となる技巧なのだと知ると、どんな小さな小唄でも興味深く聞こえてきます。
 その他、「しゃぼん玉」に込められた意味、「東京音頭」の誕生エピソードなど、これもまた興味をそそる物語ではあるけれど、事実ベースのドキュメンタリーなので、やはり面白おかしい映画というわけには行かないでしょう。ましてや、ロックやポップスといった華やかな音楽と同列に並べることは出来ないかも知れません。でもそれらの先進の音楽にも小さなこだわりがあるのかも知れないと思うと、音楽好きとして触れておいて良かった音楽史であったと思う次第です。
 あと、大正の時代を描く上でシンペイ氏がプカプカと遠慮なく喫煙されていたのは良い描き方だったと思います。当時ならタバコ片手が当たり前。今時、「ルパン三世」の次元や「紅の豚」のポルコ・ロッソが吸い殻をポイ捨てするシーンが描かれていて眉をひそめる人が居るそうですが、私はそうした仕草もその時代らしいとは思うのは、もともと喫煙者だったので抵抗がないだけなのか。コンプライアンスというんでしょうか、今時は画面にタバコを映さないのが当たり前になりつつあり、観ていて抵抗の在る人も多いかも知れません。
 そしてやっぱり、童謡の世界も良いですね。シンペイ氏の関わった唄ではないけれど、例えば、春から冬へ順にザッと上げれば「花」「早春賦」「春の小川」「鯉のぼり」「富士山」「茶摘み」「我は海の子」「夏は来ぬ」「夏の思い出」「みかんの花咲く丘」「からす」「赤とんぼ」「ゆうやけこやけ」「紅葉」「ちいさい秋」「里の秋」、あれ?冬の唄が出てこないな。暗記してて自分がすぐ歌える歌はこれぐらいでしょうか。今時のポップスは歌詞が多くて、とても覚えられないけど、童謡・唱歌は歌いやすくて覚えやすい。今時の音楽プレイヤーがなくても何時でも口ずさんで楽しめる。だからこそ、こうした小さな音楽もまた、素晴らしい芸術資産であると私は想います。

猿田猿太郎