「6888を忘れない」6888郵便大隊 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
6888を忘れない
第二次大戦下、兵士や家族ら間の手紙や郵便物を届けた黒人女性たちから成る陸軍婦人部隊の実話に基づくヒューマン・ドラマ。
監督がタイラー・ペリーというのが驚き!
アメリカでは人気のある俳優で、監督としても活躍。しかしその監督作は一部のファンには受けヒットはするものの、批評家からは酷評。日本では全く紹介されないような黒人コメディばかり。
こういう正統派の感動作も撮れるとは…。
まあ監督作も全部がコメディばかりではなくハートフル・ドラマやシリアス・サスペンスも何本か撮ってたし、役者としてもジャンルは広く。意外ではなかったかもしれない。
母と伯母と暮らす学生のリナ。白人の恋人エイブラムとの仲も良好で、戦時下であっても平凡な日常や青春を送っていたが…、
軍人として戦地に赴いたエイブラムが還らぬ人に…。
悲しみに暮れるリナは決意する。軍に入り、ヒトラーと戦うと。
リナが配属されたのは“6888大隊”。黒人や有色人種から成る婦人部隊。
隊長のチャリティー・アダムズ大尉は厳しい。
日々の訓練に挫けそうになるリナ。
やがて隊にある任務が下る…。
メロドラマ的な設定なので隊は実在でもリナはフィクションかと思ったが、彼女も実在の人物。EDに100歳となった現在のリナが。
リナに焦点を置いた作品ではなく、隊ひいては属する皆に焦点が当てられている。
即ち、黒人/有色人種で女性。
軍内部で受ける差別偏見の数々。
黒人/有色人種というだけで不当な扱いを受ける。
女性というだけで見下される。
差別偏見に満ちた周囲の醜悪な白人男ども。
軍の何処にも居場所は無い。味方もいない。
唯一の味方は同じ隊の面々。
黒人女性活動家や時のルーズベルト大統領の尽力で婦人部隊が結成されたが、高官連中は隙あらばいつでも潰そうと。特に大佐は忌み嫌う。
お前ら(黒人/有色人種/女性)にまともな任務など出来るものか。
そんな彼女たちに当てられた任務とは…
手紙など郵便物の届けや仕分け。
軍には届けられていない郵便物がごまんとある。
配達自体が滞っていたり、宛先不明だったり、兵士が各地移動して場所の特定が出来なかったり…理由は様々。
これらの処理に当たる。
言ってみれば、戦局に何の関係も影響も無いような雑用。
だが、本当にそうか…?
戦地の兵士たちは家族や恋人からの手紙を心待ちにしている。
故郷の家族や恋人たちも手紙などで無事を知る事が出来る。
時には戦死も伝えなければならないが、兵士たちの士気や精神面を支えるこれも重要な任務だ。
リナがまさしくそれ。エイブラムは手紙を出すと言っていたが、届かず。
待っている側の気持ちは胸痛いほど分かる。
だからこそ、届けたい…。
クライマックス、遂にリナの元に届いたエイブラムの手紙。リナの溢れる涙は胸を打つ。
白人男どもからすれば“お似合いの仕事”。
細かな作業だが、重労働。皆、疲労困憊。作業場は最悪の環境。冬の時期、暖房も無い。
あからさまな嫌がらせ。現代ならば何もかもがハラスメント。
しかし、屈しない。差別や偏見、嫌がらせを言い訳にしない。
それを体現したのが、隊長のアダムズ大尉。
見た人全員が讃える。全く同感。
アダムズ大尉がカッコいい。
リーダーシップに溢れ、常に毅然とした性格。
部下には厳しいのは自分にも厳しい証拠。常に真っ直ぐで、それでいて部下の事をしっかり見ている。
マイナス面ばかり見られ、リナは私の事嫌いですよね、と。アダムズは嫌いではない、と。
手紙を届ける大事さなどリナから教わった。それを評価。
大尉の位だが、白人兵士どもからすれば他の黒人/有色人種女性と変わりない。
映画館で席を巡って兵士と揉め事。黒人女どもは後ろに行け。アダムズが仲裁に入る。が、大尉のアダムズに対しても白人兵士は無礼な態度。上官に敬意を払えとアダムズが忠告しても態度は変わらず。
軍で上官の命令や上下関係は絶対。それすら通用しない。
上官に訴えるが、その上官がまた人種差別主義者なのだから埒が明かない。
軍人として、理不尽な命令や仕打ちにも堪え忍んでいたアダムズ。
ある時、冷静沈着だったアダムズの感情が爆発し、声高らかに上官に直訴。
部下たちは数々の仕打ちを受けている。
黒人、有色人種、女というだけで、私たちは戦争以前に戦っている。
このシーンは響いた…。
途中から完全にアダムズが主役に。
いや、完全に主役なのだ。数々の差別や理不尽と戦う黒人/有色人種女性の代弁。
ケリー・ワシントンが熱演。
最初は進まなかった郵便作業。
が、部下たちからの意見、各々の前職や特技を活かし、作業は進む。
やがてそれは、たった半年で滞っていた1700万を超える郵便物を待っている大切な人の元へ。
見たか! 誇り高く、優秀な陸軍婦人部隊“6888大隊”の活躍を!
一般兵士たちから惜しみない拍手が送られる。
一部の差別主義者の偏見などどうでもいい。恩恵を受けた皆の感謝の声が物語っている。
彼女たちの功績が知られたのはつい最近の事だとか。
人種差別はまだまだしぶとく根付くが、悲観ばかりじゃない。
手紙が届けられた兵士たち、家族や恋人たち。
隊の一人一人。
決して忘れる事はないだろう。
この逸話を知れて良かった。
6888を忘れない。