「コロナ禍の日本人と戦後の日本人」TOUCH タッチ おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍の日本人と戦後の日本人
映画冒頭で「原爆描写が出てくるので試聴にはご配慮を」みたいな表示が出てきて、急にそんなこと言われても「じゃあ観るのやめます」とはなかなかならんだろ、なんて思っていたが、実際観てみると日本人なのに今まで見てきた「被爆者」に関する映像の中で最も刺激の強い内容で、短い映像だったがなかなかの衝撃。
日本国内での「被爆者」に関する描写がいかにオブラートに包まれていたかを痛感(不勉強なだけかもしれないが…)。
ロンドンの大学を勢いで辞めてしまった20歳の青年・クリストファーが、ロンドンの日本料理店で働くKōki,演じるミコに一目惚れし、勢いでそのまま日本料理店に就職。
仕事をしていく中でミコと親しくなっていくが、ある日、街でミコが男を連れて歩いているのを見て、彼氏がいたことを知るクリストファー。
恋愛ドラマにありがちな展開で、他の作品だと恋人の存在を知った瞬間に「ガビーん」みたいな演出が入ってもおかしくないところを、この映画だとクリストファーがまるで何事もなかったかのような対応をしていて、こっちの方がリアルな反応で良い演出に感じた。
クリストファー自身はミコに特にアプローチをかけるわけでもなく「皿洗い」か「料理作る」か「歌を歌う」ぐらいしかしてないのに、ミコの方がどんどんクリストファーに惹かれていくので、「結局顔かよ」とは思った。
クリストファーの方はミコに会えなくなってから50年経っても彼女のことが忘れられず、結婚してて(奥さんは亡くなってはいるが)娘もいるのに彼女を探そうとするのに対し、ミコの方は彼氏と喧嘩別れしたわけでもないのに破局後、すぐに前の彼のことは忘れてクリストファーとくっつこうとするのが対照的。
あと、ミコがクリストファーに「人と付き合ったことある?その人とは寝たの?」みたいな質問をしていたが、男が女の人にそんなこと訊いたら炎上しそう。
でもまあここは若気の至りということで納得。
Kōki,という方を今回初めて見たので「これが噂のキムタクの娘か」となりつつ、「キムタクの娘」という意識が強かったため、最初は本木雅弘演じるミコの父親に感情移入しながら観ていたが、この父親が途中から共感しづらい行動ばかりとるようになるので、「モッくん、それは違うよ」と思う場面が多かった。
途中、東京出身だと思われていたミコやその父親が実は別の場所から来たことがわかり、その地名が東京と同じぐらい世界に知れ渡っていることが興味深かった。
前半はコロナ禍のロンドンが舞台で、ホテルでアルコール消毒する場面やソーシャルディスタンスをとるように注意を受ける場面が出てきて「他の国も同じなんだ」と思いつつ、ロンドンでマスクをしている人はゼロ。
一方、後半は舞台が日本に移り、みんなマスク姿なのを見て、日本が他の国よりも「感染」に敏感なことがよくわかる。
後半、50年前の日本人たちの被爆者に対する行動が、今の日本人からしたら理解不能だが、前半に「コロナ禍でのロンドンと日本の対応の違い」が描かれている結果、「日本人ならば被爆者に差別的な態度をとってしまうのも納得」な作りになっていて、映画の構成が上手いと思った。
怒る人は多そうだけど…
エンドロールに流れる音楽が久石譲っぽくて沁みた。
厨房で働く頑固親父な見た目の方のオペラが美声すぎて吹いてしまった。