「ヒロシマ・モナムール」TOUCH タッチ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒロシマ・モナムール
「消えた女」と「探す男」の構図はここでも見られる。
が、{サスペンス}や{ミステリー}ではなく、
純然とした{ラブストーリー}として。
舞台は五十年前のロンドンと、
コロナ禍の現代の日本。
ロンドンに在る日本料理店の店主『高橋(本木雅弘)』の娘『ミコ/美子(Kōki,)』に一目惚れした
『クリストファー(パルミ・コルマウクル)』は、その店で働き始める。
やがて二人は愛し合うようになる。
が、『高橋』はある日突然に店を閉め、
娘ともども忽然と姿を消す。
手を尽くして探すものの、
二人の行方は杳として知れず手掛かりも無い。
月日は過ぎ、結婚はしたものの、
自身の子は成さなかった『クリストファー』は
故郷のアイスランドでレストランを経営している。
齢も七十を過ぎ、初期の認知症との診断を受け、
医者から「やり残したこと」について問われた彼は
過去の恋人を探す旅に出る。
故郷からロンドン、そして日本へと。
{ロードムービー}の側面も併せ持つ。
物語りは主に二つの時代、
過去と現代を自在に往還する。
前触れもなく画面は転換するものの、
繋ぎ方が上手いのだろう、
混乱することなく、時系列はすっと頭の中に入って来る。
『クリストファー』の病の進行を、
長年に渡り記憶してきた思い出の俳句が
次第に頭に浮かばなくなることで表現する演出も小技が効いている。
『高橋』父娘が姿を消した理由は、
かなり早い時間でそれと知れる。
また、後半部では、新たな事実の提示がありはするものの、
それも先読みが可能なエピソード。
謎解きの面ではさほどの驚きはない。
寧ろ二人が、日本を離れた理由にこそ
思いを寄せるべき。
料理店の客層は、ほぼほぼ
日本人の駐在員をはじめとするコミュニティーの人たちに限られるよう。
加えて主人公の学生仲間も、
「ジャップの店」と侮蔑的に表現。
下宿の女主人も、
付き合っているのが日本人女性と知ると
「気を付けなさい」と注意する始末。
そうした差別を受け、異邦人としてロンドンに身を置く方が、
日本に住んでいるよりも気持ちが軽くなるとの心情は、
故郷でどれほどの辛酸を舐めたからなのか。
後半に向けては、更に{ラブ・ロマンス}の色合いが強くなる。
あざとらしは無く、ごくごく自然に鑑賞者の心情に柔らかく入って来て、
幸福な感情で満たしていく。
『ミコ/美子』を演じた『Kōki,』の出来が
意外なほど良いのに驚く。
元々英語はできるのだろうが、
不自然さを感じない透明感のある演技は
本作が映画二本目とは思えぬほど。