「【ただのアオハルなラブコメではなかった『この夏の星を見る』】」この夏の星を見る LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
【ただのアオハルなラブコメではなかった『この夏の星を見る』】
2019年。茨城県のある高校で、天文部に入部した宇宙オタクの1年生女子、渓本亜紗(演:桜田ひより)が、自作望遠鏡を3年掛けて作ろうと意気込む同期男子の飯塚凛久(演:水沢林太郎)とともに部活動にのめり込んでいくが、パンデミックが翌年から始まる。
緊急事態宣言とともに3ヶ月近くの休校措置、その後も部活動の時間制限や天文イベントの見送りなどで、卒業まで高校生活が何もできないのではないかという諦めと絶望感・無力感の中、「何かできるはず」と知恵を絞った挙げ句にオンラインで日本各地の学校を結んでスターキャッチコンテストをやろう、という企画が動き出す。
この茨城を軸に、長崎五島で県外者を受け入れていたために地元で非難される民宿の娘、佐々野円華(演:中野有紗)とその親友・福田小春(演:早瀬憩)の関係にヒビが入っていく無惨、東京でサッカー部が解散してしまい目標を見失った中学生、安藤真宙(演:黒川想也)の迷走など、それぞれの地域のエピソードが絡みながら物語は進んでいく。
---------------------------------------------
これも例によって別の映画を観に行った時の幕間時間の予告編で知り、少し心を動かされたのであまり期待せずに予約した。
この日の本命は夕方からの『おい、太宰』で、要するにせっかく日比谷界隈に出ていったのだから1本だけじゃもったいない、その前に時間が合えば何か1~2本観ておこう、という貧乏根性に過ぎなかった。
まず、小生は桜田ひよりが誰だか知らないし、彼女を目当てにしていたのではない。そして、なんとなくアオハルなラブコメ展開が予想されたので、普通なら絶対に食指が動かない。
ただ、何よりも長崎・五島の2人の高校生役で中野有紗と早瀬憩が出ているので、それだけ観たかった。
中野有紗は『PERFECT DAYS』で役所広司の姪っ子役だった。
そして早瀬憩は『違国日記』で天涯孤独となって新垣結衣に引き取られた女の子を演じ、強烈な印象が残っていた。そうそう、彼女は朝ドラ『虎に翼』のよねさんの薄幸の少女時代を演じていたが、あれも良かった。
他にも、黒川想矢は『国宝』で極道の息子で主役となる喜久雄(演:吉沢亮)の少年時代を見事に演じていた。
出演者はさておき、作品全体にあまり期待していなかったもう一つの大きな理由は、これは予告編を観た時点で非常に不思議かつ驚いたのだが、この作品は「コロナ禍での学生生活」を描いているわけで、出演者たちがみんな律儀にマスクをしているのだ(予告編をぜひご覧あれ)。
当然のことながら、演技の一番大きなファクターは、顔の表情である。
確か『フロントライン』でもクレジットで「演出上マスクをせずに会話してるシーンがありますが、当時実際には着用して活動しています」云々と表記していたはずだ。
その顔をほぼ半分以上隠したままの演技で、芝居として成り立つのだろうか?
この点もかなり疑問符がありながら、逆にどうやって克服するのか興味津々だった。
結果、お見事というほかなかった。
役者の演技は顔が隠れているハンディをまったく感じさせなかった。
辻村深月の原作小説が良いのだろうし、それを映像化するにあたっての脚本のバランスが良いのだろう。
アオハルなラブコメの香りはもちろんあるものの、アイドル役者に頼ったベタベタしたものではなく、さりとてコーコー野球的なアナクロな部活動の感動を狙うあざとさもない。
むしろ淡々としたトーン寄りに描こうとしており、大人たち(教師や天文台所長)の上川周作、岡部たかし、近藤芳正など実力派の脇役がそれを強化するようにバックボーンをガッチリ固めているので、プロットに安心感がある。
そして脚本やキャスティングのバランスの良さとともに、編集が優れていると感じた。テンポが良く、必要十分なスピード感があり、この作品の良さにおいて非常に重要なファクターを占めているとさえ思った。
観終わってみれば、うむ、なかなか良い映画を観た、という満足感に包まれた。
ここ最近一部を除いて洋画がおもしろくないけれど、邦画はかなり健闘しているな。この先も『木の上の軍隊』や『宝島』など、期待が高まってしょうがない。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。