Under Parallel Skiesのレビュー・感想・評価
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ネタばれ注意 優しい男のラブストーリー
※ネタばれ注意※
フィリピン映画を初鑑賞。
本作は制作とヒロインがフィリピン、相手役はエンタメ界の躍進が目覚ましいタイからの抜擢、そして全編香港ロケという多層的な試みが感じられるアジア映画だった。
主人公は失踪した母親を探してタイから香港へやってきた裕福な青年パリン。
母親探しが難航している苛立ちを隠さず、周囲に対して傲慢にふるまっている。
ヒロインはフィリピンから香港のホテルで働いているアイリス。
毎晩泥酔して戻ってくるパリンを引きずって客室に入れて世話をする面倒見のいい明るい女性。
パリンがアイリスに香港でタイ人がいそうな界隈の案内を頼んだことから、二人で過ごす時間が増えていき、やがてかけがえのない相手になっていくラブストーリーだ。
ようやく見つけた母親が、裕福な暮らしを捨てて貧しいながらも幸せに暮らしている姿を目の当たりにして、この幸せを壊すことはできないと許すパリンは、いけ好かないように見えて実はとても優しい男だった。
その優しさはとある事情を抱えて姿を消したアイリスに対しても注がれて、愛の最中に置き去りにされた男の姿が痛々しく描かれている。パリンがアイリスを探しに行かなかったのは、アイリスが探さないでくれと頼んだから、抜け殻のようになっても彼女と過ごした地を離れなかったのは彼女を待ち続けていたからなのだろう。真実を知ってやっと立ち上がれたパリンの姿に、例え残酷でも真実こそが人に前進する力を与えてくれるのだと感じた。
アイリスの選択はパリンには残酷だったと思うが、その気持ちも痛いほど理解できた。長い歳月をともに過ごしてきた恋人同士であったらまた別な選択をしたのだろうが、二人の短い時間を思うと、パリンの記憶の中に笑顔のまま留まりたいと願ったとしても、その選択を責めることができない。
人は皆、違う空の下にいる。でも同じ空の下で笑い合っている奇跡のような瞬間を大切にしたい——そんな余韻の残る奥行きのある作品だった。
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