「狙いは分かるが造りがやや雑」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
狙いは分かるが造りがやや雑
人里離れた村の旧家における殺人事件がオモテのストーリー。横溝正史ばりの鉄板パターン。見立て殺人はないけど。
ウラで意識されているのは「血」。まずは龍賀家の血脈があって、戦争で流された血。そして龍賀製薬がつくっている血液製剤、主人公の水木が勤めている帝国血液銀行のこともある。昭和31年の話で売買血というのは普通にあった。完全になくなるのは薬害エイズ事件後となる。
余談だが、今は「血税」という言葉を税金のこととして普通に使うでしょ。「血の滲み出るような苦労をして収める税金」というニュアンスで。あれは誤用。血税というのは、おカネの代わりに血であがなう税ということで徴兵を本来は指す。
水木しげるさんの漫画の原点はこの血税で、兵隊として行ったニューギニアにあります。この映画では主人公にわざわざ水木という名前をつけているんだから当然、原作者を投影している。
でも戦争体験はほんのカタチだけなぞっている程度なんですね。他のモチーフもそうで、血液製剤のこと、幽霊のこと、妖怪のこと、裏鬼道、神社の儀式、龍賀家のそれぞれの人物造形なんかも、バラバラ出てくる割にいずれも彫り込みが浅い。
さらにいえば、この映画は、空間設定がとても甘い。旧家の構造は入り組んでいて深く暗い。そこをきちんと見せることによって怖さや謎めいた感じが出てくるのですができていない。鬼太郎父と長田が死闘を繰り広げる洋館ベランダは中盤になって突然出てくる。屋敷全体との整合性がよくわからない。屋敷の地下と、湖上の島とはつながっていて、そこに秘密があるという設定なのだが、入り口や出口がほとんど出ず突然、地下道の映像になってしまう。都度都度の場面で全体像がみえない。だから世界観が構築できていない。
一時が万事。細部にかなり雑さがあると言わざるを得ない。水木と鬼太郎の父の人物造形は魅力的なのでつくり方によってはもっと面白くできただろうにね。残念です。