「ツッコミどころ満載の作品でした。問題なのは、悲劇や切なさを詰め込みすぎて、何とか観客を泣かせたいというご都合主義を感じるところです。登場人物が病気になるという設定が多すぎます。」366日 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ツッコミどころ満載の作品でした。問題なのは、悲劇や切なさを詰め込みすぎて、何とか観客を泣かせたいというご都合主義を感じるところです。登場人物が病気になるという設定が多すぎます。
沖縄出身のバンド「HY」の同名楽曲をモチーフに、沖縄と東京を舞台に20年の時を超えて織りなされる純愛をオリジナルストーリーで描いた恋愛映画。
●ストーリー
うるう年は366日あります。本作のヒロイン玉城美海(みう・上白石萌歌)はうるう年の2月29日に生まれました。
冒頭は2024年の現在から始まります。音楽会社に勤める真喜屋湊(みなと・赤楚衛二)の元を、一人の少女が訪れます。戸惑う湊に彼女が渡したのは、一枚のMDでした。
そこに入っていたのは、15年前に別れた恋人・美海からのメッセージだった――。
話は一転し2003年。沖縄に住む高校生の湊は、母を病気で失って悲しみにくれていました。そんなある日、海で美海と出会い、サーターアンダーギーをもらいます。湊は美海と話しているうちに元気になっていきました。2人は大好きなHYの曲を一緒に聴いて仲を深めます。湊は卒業式の日に美海に告白し、ふたりは付きあいはじめるのでした。
母を病気で亡くし、音楽を作るという自分の夢を諦めかけていた湊でしたが、「いつか湊先輩の作った曲、聴きたいです」という美海の言葉に背中を押され、東京の大学に進学。2年後には美海も上京し、東京での幸せな日々がスタートします。音楽会社への就職が決まった湊と、通訳という夢に向かって奮闘する美海は、この幸せがずっと続くよう願っていました。
「こんな幸せな日々が、365日ずっと続きますように」そう願っていた2人。しかしある日、湊は突然別れを告げて、美海の元を去ってしまいます。美海は悲しのあまり、妊娠していたことを言い出せませんでした。
失恋の悲しみを抱えたまま美海は沖縄へ帰郷。2人は別々の人生を歩むことになります。
●解説
前編沖縄の海の美しさが画面いっぱいに広がっていて、まるで観光PR映像を見ているかのように、全編快晴で、沖縄の抜けるような青空と碧い海が印象的です。主人公の二人が裸足で波打ち際を歩き、告白し合うシーンはロマンチックで、おじさんでもキュンときました(^^ゞ
HYの大ヒット曲「366日」にインスパイヤされた作品であるにもかかわらず、これ見よがし的なHYの曲使用は徹底的に抑制されており、途中登場人物がMDで曲を聴くシーンも敢えて曲なしで描かれました。
その分後半の重要シーンである、湊が久々に沖縄に帰郷しバス停で降りて走りだすところで、「366日」が満を持したかのように流れ出しサビを迎えます。加えてその後にアンサーソングであるHYの「恋をして」が流されるところは、大変印象的で心にしみることでしょう。名曲の力を感じさせてくれます。
でも物語は高校時代の美海と湊の出会いから、美海の娘の陽葵(ひまり・稲垣来泉
)が母親の元彼となっていた湊の元を訪れる間を何度もスイッチバックしながら、進行するため、ある程度物語が進まないと、どう状況なのかわかりづらいのです。
それだけでなく、ツッコミどころ満載の作品でした。問題なのは、悲劇や切なさを詰め込みすぎて、何とか観客を泣かせたいというご都合主義を感じるところです。
その代表格が、登場人物が病気になるという設定が多すぎるという問題です。号泣作品に難病や重い病気はなくてはならないものです。だからといって主人公カップルの両方が病気になってしまうのは、いかがなものでしょうか。
まずは湊の母親の病死でしょう。ただこれは必要な設定だと思います。母の死があったからこそ、落ち込んだ湊が美海と出会うきっかけとなったからです。
その後湊が白血病になるというのも疑問です。いくら母親が白血病で死んだからといっても白血病は、通常は遺伝性ではなく、後天的な遺伝子異常が原因で発症すると考えられているのです。美海に突然の別れを切り出すための強引な設定だとしか考えられません。 湊が美海に白血病のことを伝えなかったのは母親が白血病で死んだ悲しい別れがあるからというのなら、もっと湊と母の回想がもっとあってもよかったのではないでしょうか。 本作は悲劇の詰め込みすぎで、過程が省略されてしまい、カタルシスが弱くなっているのです。ふたりの高校生活、大学生活、そして同棲中の日常などなどがほんの少ししか描かれていないのです。何気ない日常生活の描写を重ねてこそ、悲劇がいきてくるものです。
さらに極めつきは、美海が中学生になった陽葵を残して治らない病気に罹ることです。これも2024年の美海が娘の陽葵に、本当の父親である湊との思い出を残してやりたいという感動設定のためには、必要なことだったのでしょう。
このように本作は物語の転換点に必ず病気を持ってくるというのが特徴になっています。主要登場人物のうち3人までもが病気に罹るとは、よほど観客を泣かせたかったのでしょう。
またすこし疑問に感じるのは、本作の影の主役であるMD(ミニディスク)の存在。最近の若い人にはMDとは何か、さっぱりわからないものになっていることでしょう。ソニーが1992年(平成4年)に製品化したデジタルオーディオの光ディスク記録方式です。本作がソニー映画の製作なので、是非とも取り上げたかったのでしょう。
しかし作品の舞台となる2000年代の後半から、フラッシュメモリに取って代わられていったのです。なので美海と湊がMDを使っていたという設定も時代遅れのような気がします。そして陽葵が持参した海からのメッセージが吹き込まれたMDを湊がレコーディングルームで聴くシーンですが、スタジオの音響設備を使わず、湊はわざわざ自分のMDを知りだして聴くのです。でも2024年にもなって、まだMDを持ち歩くなんて、凄く不自然だと思いました。
そして最大の疑問点は、なぜ白血病のこと、妊娠したことをそれぞれ別れる時に伝えられなかったのかということです。普通ならそんな大事なことを愛する人に伝えない訳がありません。湊の場合、結局は薬物療法で全快したので、やっぱり言っておけば良かったのです。
そのため湊の身代わりとなって、美海と結婚し陽葵を育てることになった、幼なじみの琉晴(りゅうせい/中島裕翔)がかわいそすぎますね。
上映時間 :122分
劇場公開日:2025年1月10日