「タイトルなし(ネタバレ)」遠い山なみの光 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
80年代の英国。
ロンドンで暮らすニキ(カミラ・アイコ)が久しぶりに母親・悦子(吉田羊)のもとに帰って来た。
悦子が、一人で暮らす家を処分することにしたからだ。
こんな際にもかかわらず(こんな際だからかもしれないが)、作家を目指す(目指そうとしている)ニキは、悦子から長崎時代の彼女の話を聞き出すことにした・・・
といったところからはじまる物語。
悦子の口から出てくる長崎の話は、戦後7年、1952年の夏の話だった。
新しく建ったアパートに暮らす悦子(広瀬すず)。
彼女は、恩師緒方(三浦友和)の息子・二郎(松下洸平)と結婚し、妊娠していた。
ある日、悦子は河原でいじめられている小学生低学年ぐらいの女児を見つけ、女児の暮らす家へと連れて行った。
その家は、悦子の部屋の窓から見える、河原の掘っ立て小屋だった。
その掘っ立て小屋には派手な格好の女性が暮らしていて、時折、駐留兵が訪れることを悦子はみていた。
果たして、現れた母親(二階堂ふみ)は見るからに派手な格好をしていた。
佐知子と名乗り、女児の名は真理子と紹介する。
悦子と佐知子と名乗った女性との間に奇妙な友情のようなものが芽生え、あるとき、互いが被曝していることを知る・・・
日本映画っぽくない雰囲気の映画。
巻頭から謎や違和感が充満している。
あらすじに書きそびれたが、
ニキは悦子と死別した英国人夫との間の子どもであること、
ニキの上には景子という姉がいたが自殺してしまったこと、
が冒頭で示される。
観終わっての感想は、(以下、ネタバレ含む)
「『マルホランド・ドライブ』か!」でした。
というのも、『マルホランド・ドライブ』を観た後の映画サークルの合評会で、『これ(マルホランド・ドライブ)って、一人の女性を二人の女優に分けて描いただけなんじゃない?』と発言して、周りを驚愕させたことを思い出したから。
(ネタバレここまで)
さて『遠い山なみの光』に戻って。
大いに感心したのは次の2点。
ひとつは、長崎の山をロープウェイで登るエピソード。
女性ふたりの衣装の類似・相似性。
これは、佐知子の掘っ立て小屋にある百合と、英国の悦子の部屋の百合にも符合します。
もうひとつは、娘ニキのキャスティング。
吉田羊似というより・・・
非常に、面白く観ることができました。
<以下、余談>
で、観ているときに、わたしが拘泥したのは、
佐知子の娘・真理子がみる幻想めいたもの。
佐知子と真理子が原爆被害のなか逃げ回っていた際、女性が何やら小さいモノを水の中に沈めていたというもの。
モノは赤ん坊のように思える。
この挿話は、佐知子が出国直前に子猫を水に沈めて殺す「猫殺し」に重ねられ、「猫=子ども」かしらんと思ってました。
なので、子どもは3人。
長女、嬰児、再婚外国人との間との子。
と。
で、長女が、次に生まれた嬰児殺しを目撃しており、そのために精神を病んだ、母親が信じられなくなった・・・
という謎が隠されているのかと思ったわけで。
そうすると、子どもたちの年齢に齟齬が出てくるので、「考えすぎかぁ」として、捨てた次第です。
猫殺しの場面と、乳児殺しの場面をそう重ねるのも面白い考察ですね。
猫殺しの場面はトラウマになった乳児殺しの場面をリアルに見せるための作り話かなって思いました。
ニキが開けた恵子の箱に猫じゃらしが入っていたこと、最後の方の場面で家の中に大人の虎猫がいたこと。ちゃんと海を渡り、イギリスで命を繋いだのではないでしょうか。一つの考察です。
考えすぎでしょうね。殺しがあったとするレビューが多いのですが、それだとあの明るいラストに繋がらない。ニキが書こうとする物語は罪の告発ではないはずだから。
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