「かりそめではない平和を」遠い山なみの光 humさんの映画レビュー(感想・評価)
かりそめではない平和を
違和感の扉に鍵をさすニキの視点で悦子の語りを追ううち、正解のない虚像に出会い戸惑う
そこに見えてくるのは、いつの時代にもある隔世という壁、差別や常識の抑圧、束縛という枷、そして戦争が及ぼす心身の痛みのひどさ
しかも皆が傷を抱えたまま、必死に復興に向かわなければならなかった戦後の世の中だ
理想があるほど現実との狭間に生み出されていく自分のなかの異物たち
彼女は心を押し殺し、もがいたのだとおもう
良い妻、良い嫁、良い母…
求められ問われる度に葛藤を重ねどんなに生きづらかったことだろう
そして悦子は絶望を断つ
こうありたいと思う虚像の自分でつなぎとめ
彼女なりの生きるための術でひかりをつないだ
蒸す草が絡みつく夢に起こされる日々は止まず
罪悪感という縄が食い込む感触はいつもここにあり
捨てられない小さな赤い長靴に本音を秘めたまま
代償は年月を越えて襲う
それでも〝私らしさ〟を生きてきた証だと本人が誰よりも知りつくす
その人生に誰が何を言えるだろう
庭を見渡す窓越しに曇りがちなイギリスの空気を纏いながら、30年後の憧れの地の部屋でも艶やかなユリが香っていた
悦子という人間のアイデンティティが凝縮されたかのようなカットが印象的な彩を放ち、その様子に私もほんのり安らいだ
あぁ家族の節目の時間は母娘のこれからに大切なをきっかけを与えたのだなと感じられた
若い悩みを抱えるニキは母の半生から自分の意志を信じる人生の意義を感じてまた一歩踏み出すだろう
悦子は娘のまっすぐで優しい勇気により、孤独すぎた夢のための重荷を少しはおろせのではないだろうか
そしてきっとこれからも自分の中の自分をあちらとこちらを漂ようように紡ぐ
だけどようやくのんびりとゆっくりと
日本は戦後80年を迎えた
しかし、隣り合わせで繰り返される悪夢は人ごとではない
誰もが光を見つめられ、見失わせない世界を
原作者や監督のメッセージを受けた私たちは考え行動しなければと思うのだ
平和はかりそめではいけない
その意味がこの物語には溢れていた
共感ありがとうございました。悦子は心の奥底に蓋をしていた重荷を二女によって少し降ろせたようですよね。祖国を離れたのは自分の望みだったとしても、長女を失い、30年の年月が。遠い道のりでした。
世界では今も、かりそめの平穏さえ叶わない人々が居る事を考えると、平和に暮らしている自分は複雑な思いです。
コメントありがとうございます。
思い出したくない思い出を綴る話は、美しくも哀しくて自分にも嘘をつくと思わせる映画…二階堂ふみと広瀬すずは素晴らしかったです♪
共感&コメントありがとうございます。
物語の真相より、さらにその先にあるメッセージが大切ですね。
そこに気づかせてくれる、humさんの素敵なレビューが、胸に沁みます。
共感ありがとうございました。
前向きで文学的なレビュー読ませていただきました。『ひかり』を自分は象徴的な景観として捉えましたが、まあ、解釈の自由度が高いので……
私は何故悦子は、、というところが気になってしまいネタバレ解説サイトのお世話になりましたが、そこは重要では無いのですね。
誰もが自分の人生を振り返ると、後悔や秘密があるのだと思いますが、、、最後はドラマチックと言うよりは切ない終わり方でした。
見終わった次の日まで続く余韻が良い映画でした。
コメントありがとうございます。私も解釈が自由な作品が好きです。あと、登場人物の来し方行く末を考えてみたりするのも。 humさんの詩のようなレビューを楽しみにしています。これからも好きな映画のお話、いろいろとお聞きしたいです
共感ありがとうございます。
この前に観た長崎閃光の影で、で山向こうの爆発が印象的だったからだと思います。
渡英で苦しい目にも遭ったんでしょうが、離れて救われた部分も在るんじゃないですかね。
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