「カンヌへ二階堂ふみが行かなかった《謎》が解けました。」遠い山なみの光 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
カンヌへ二階堂ふみが行かなかった《謎》が解けました。
観て分かりました。行かない訳です。
二階堂ふみがカンヌ国際映画祭のワールドプレミアに居なかったことに
とても違和感を感じていました。
つまりそれが、この映画の最大の《謎》でした。
最後の最後まで騙されましたね。
川を挟んで向かいに立つ高い丘に高層の新興団地がある。
団地には悦子(広瀬すず)が夫の緒方二郎(松下洸平)と平穏に暮らしている。
悦子は身重で家のベランダから遠くに見える川下の粗末なバラックに住み、
米兵を家に誘い入れている派手な服装の佐知子(二階堂ふみ)の様子を
気にかけている。
佐知子には幼い万里子(鈴木碧桜)という娘がいる。
その万里子が行方不明になったと佐知子が駆け込んでくる。
付近では少女絞殺事件が3件も発生している。
二郎の同僚たちの客を放り投げて、悦子は万里子を探す、
えっ、アレっと違和感。
佐知子はアメリカへ渡ることを夢見ていて、荷造りをしており
もうすぐ神戸から船に乗るつもりでいます。
この映画は1952年長崎の悦子を広瀬すず。
イギリスに渡った1982年の悦子を吉田羊が演じている。
1982年の悦子は長女の景子の自殺に傷つき、ベッドでは眠れず、
居間のソファで仮眠を取り悪夢にうなされている。
そんな時、文筆業に踏み入れた次女のニキが、母親の長崎から
イギリスに渡った日本女性の回想を書く依頼を受けて、
「ママの全部が知りたい」と取材を始めるのです。
ニキを演じるカミラ・アキコが実にチャーミング。
美しいし聡明だし演技の基礎がしっかりしている。
そうして、長崎時代の悦子の人生を振り返る回想場面がとても多い映画です。
原作者のノーベル賞作家カズオイシグロは1954年長崎に生まれていました。
1960年にイギリスに移住して、帰化。
1985年に書いたデビュー作がこの「遠い山なみの光」
発表当時の題名は「女たちの遠い夏」だったのも、意味がありますね。
長崎は1945年8月9日午前11時2分。
原子爆弾が広島に次いで2番目に投下された都市です。
一瞬で7万人以上が死亡しました。
生き残った人も一様に傷つき必死で生きようとしている1952年。
その長崎ですら被爆者への差別が存在しているのには正直言って
驚きました。
二郎は悦子が被爆してしなくて良かった・・・と妊娠を受け止め、
悦子は「私が被爆してたなら、結婚しなかった?」と、
問うのでした。
如何にも従順でお淑やかで危なげない悦子。
それに対して佐知子はバラックで派手に着飾り、ロイヤルコペンハーゲンの
紅茶セットで悦子をもてなす、夢見がちな女性です。
けれど娘の万里子は汚れた粗末な服装に、腕にはケロイドのような
傷跡さえある。
悦子の生活に突然割り込む二郎の父親・緒方誠二(三浦友和)は、
軍国主義の高校校長で未だに自分の過去を反省などしていない。
《3人の女》と娘が2人。
1952年の悦子と佐知子。1982年の吉田羊の佐知子。
そして万里子は、実はイギリスに連れて渡った悦子の長女。
万里子と景子は同じ子供です。
そしてイギリス人の父親に生まれた悦子の次女がニキです。
イギリスの田舎の悦子の家は日本風の庭を持つ西洋建築。
とても居心地の良さそうな素敵な家。
対して1952年代の長崎はケーブルカーもできて、市電も走り
たった戦後7年で、見た目は力強く復興している。
もしか悦子が1952年にイギリスへ渡っていたら、
《日本人に当時のイギリス人の風潮は決して優しくは無かった》
との会話があります。
ここで大きな種明かしをしてみれば、
佐知子(二階堂ふみ)イコール・悦子(広瀬すず)
万里子イコール景子。
佐知子は居なかったととも言えるし悦子もいなかったとも言える。
2人で1人の同一人物であるとともに、あの長崎の原爆を経験した
不特定多数の1人である女性像だと私は思います。
2人とも創作の上で生まれた戦後を生きて海外へ渡った日本女性の
モンタージュでありメタファーであり架空の人物なのです。
そもそも映画も小説もフィクションですから、登場人物は
架空の存在です。
しかし原作者のカズオイシグロの小説を映画化した石川慶の脚本は
素晴らしいし、1952年の長崎を再現した映像は、懐かしい昭和そのもの。
セピア色がかった暖色系の夕刻の市街地が本当に美しい。
橋の下の佐知子と新興団地の悦子との格差を映像で際立たせ、
広瀬すずという芯が強く美しくブレない真っ当な女。
対して米米兵を受け入れ、派手な生き方で眉を顰められる二階堂ふみの
現実にもがき打破しようとする強い女性像。
その2人が1人だなんて。
本当に驚きました。
かなりのサプライズでした。
しかし前述した通り、悦子も佐知子も戦後の長崎を生き抜いた女たちの
不特定多数の集約だと思います。
そして石川慶監督は人物に生命を吹き込むことに成功。
悦子も佐知子もニキも万里子も、登場人物が現実として生きて
その人生を暮らしていました。
創作上の人物に原作以上に膨らませて味付けした石川慶監督の
演出は冴えわたりました。
佐知子と悦子が同一人物と、ラストで知った時、
熱い涙が込み上げて、なんとも言えない感動に震えました。
琥珀糖様、共感、コメントありがとうございます。
おっしゃるように広瀬すずは、今年、けっこう飛躍したかもしれませんね。「宝島」も良かったですし。ちょっと貫禄すら感じます。
佐知子の子供の腕のやけどのようなひきつれは、被曝したあとです。柴田理恵さんが演じる女将さんの店でのエピソードで明らかです。被曝しないですんでいたらと、1982年の悦子が想像した悦子が、1952年の悦子で、被曝した悦子が、佐知子という形で回想されたのだと思います。
カズオイシグロが辛さを抱えながらたくましく戦後を生き抜いた女達の姿をあの2人に集約させた、その通りですね。そして石川監督はそれを原作以上に膨らませましたね(未読ですが汗)。こころさんとのやり取りを読んで、シェパーズパイのレシピを検索したら、素朴だけど手の込んだ料理で、悦子の人生は逃げるだけでは無くて、イギリスでの生活を大切にしていたんだなと思いました。
今晩は^ ^
原作未読で鑑賞してきました♬
深良いレビュー有難う御座います‼︎
二階堂ふみさんは映画祭行かなかったとは知りませんでしたorz やはりあの時代にシングルマザーをするのは大変だっただろうなと思いました…
共感ありがとうございます。
とても細かく丁寧に観られていますね。素晴らしいです。
>悦子も佐知子も戦後の長崎を生き抜いた女たちの不特定多数の集約だと思います。
なるほど、そういう風に捉えることもできるのか、と新しい気づきでした。
行き違いになってしまいました。
いえ〜この作品、なんかうまくまとめられないなーと思いまして。あと、ややサイトに疲れてしまい、今回は短めにしました。
ありがとうございます😊
共感ありがとうございました。
公開を知りいつものように原作を図書館本で読んだのですが、琥珀糖さん始め皆さんのレビューと映像の方がわかりやすいです!
不特定多数の集約、本当にそういう事ですね。いつの時代も女の苦悩は生きやすさや居場所を求めているような感じがしますね。
琥珀糖さん
こんばんは(^^)
コメントを頂き有難うございます。
堪えきれずに嗚咽する広瀬すずさんの演技、切なかったです。
シェパーズパイ、そうです (^^)
コンクールが行われた日に、よく作っていたニキが好きだったシェパーズパイ … と楽しそうに二人で話しながら作っていたそのパイです。
吉田羊さん、装いも似合ってらっしゃいましたね 🌱
母親を演じた3人の女優さんの持ち味の芯の強さも魅力に感じました。
レビューでも書いた通り、私は佐知子と悦子が同じ人物であったというこの脚本にはまったく納得していません。でもだからといって二階堂ふみが助演扱いでカンヌも連れて行ってもらえなかったのであればそれはちょっと酷いと思います。確かにこの映画での二階堂さんはやや輝きを欠く演技だったとは思うのですがそれは演出のせいでしょう。
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