「豊潤である、という尺度では今年のNo. 1」遠い山なみの光 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
豊潤である、という尺度では今年のNo. 1
私は映画のパンフレットは滅多に買わないのですが、この作品は何の迷いもなく、鑑賞後すぐに購入。それは謎の部分が自分の解釈で合っているのか確認したいと思ったことと、何よりもこんなに素晴らしい作品を見たことの記念を残しておきたいと思ったからです。
そうしたら驚くことに、このパンフレットの中身もひとつの文芸作品のように味わい深いのです。まだ3/5くらいしか読んでないのにもう値段分以上に作品愛の感情が上乗せされています。
映画化プロジェクトは2020年に始まったそうですが、スタッフ、キャストそれぞれの思いがいかに化学反応を引き起こしてこれだけのモノに結実したのか。知るほどに作品の出来映えに納得するし、あらためて感動と敬意を覚えることになります。
『とても丁寧に作られた作品だと感じました。何より一つ一つのセクションの完成度が高い。』
(二階堂ふみさんへのインタビューより)
『想像した以上にミステリー仕立てで、これは一体誰の物語なんだろうと振り回される楽しみもありながら、登場人物たちの後悔や痛みがじりじりと迫り来るリアリティもあって。最後は長崎の悦子と佐知子の、時代を逞しく生き抜く美しさに思わず涙が溢れました。』
(吉田羊さんへのインタビューより)
以上は、パンフレットからの一部引用ですが、本当にその通りの映画でした。
【追記】(2025.9.6)
最近読んだ福岡伸一さんの著作(生命と時間のあいだ 新潮社)の中で、原作者カズオ・イシグロさんの発言について書かれていることを抜粋しました。この物語にも大いに関わりのある〝記憶〟についての発言です。
・記憶とは、法廷における頼りにならない証人のようなもの
・人は自分自身の必要に応じてものごとを記憶するが、そこには、その時々の状態が反映されている
・記憶がそのような頼りないものだからこそ、作家として心奪われる
・記憶とは死に対する部分的な勝利なのです
人間はどんなに抗っても死には勝てないけれど、悔恨であろうが、喜ばしいものであろうが、恣意性があろうとなかろうと、記憶というものがあるからこそどんな人間のどんな人生にとっても生きている証であり、支えでもある。
そんなふうに考えて、この映画を見直すとまた新たな発見や解釈が生まれてくる。そんな豊潤な映画です。
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