リアル・ペイン 心の旅のレビュー・感想・評価
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何気に凄い映画
新しい技術や斬新な切り口がなくても、まったく新しい映画は作れるのである。
さり気なく穏やかな小品であるので、この映画の凄さが気付かれないのが心配だ。
ただただツアーに参加して、その短い期間をともにし、そして旅を終わりただただ普通に日常に戻るだけである。
そこにあるのは、どこにでもある小さなトラブルやさり気ない会話だけである。
ベンジーが抱えた心の問題は何も解決した訳でなく、オープニングの空港ロビーとエンディングのロビーのベンジーに大きな変化はないだろう。
ただただ旅の思い出が積み重ねられただけだろう。
ただベンジーがまた苦しみに囚われたとき、その思い出が彼を思い止まらせる解決策ではなくとも、そのひとつになるかも知れないのだ。
人が人に出来ることは、デヴィッドがベンジーに出来ることはそれぐらいのことしかないのだ。
それは悲しく、また愛おしい。
用意された1号車とたどり着いた1号車は同じようで違うのである。
置かれた石は人によっては、ただの石ころであったり、邪魔なものであったり、大事な紀念碑であったりする。
自分たちのルーツを巡る旅を通して心を通わす従兄弟の物語
内容が良さそうであるので鑑賞。
ユダヤ人であるデヴィッドとベンジーの二人。性格が正反対の従兄弟が祖母の遺言に従い、自分たちのルーツであるポーランドのアウシュビッツを巡るツアー旅行に参加する中で、自分を見つめなおし、生き方を見つめなおし、心を通わせる物語。途中ツアー客に気まずい思いをさせたり自由奔放にふるまうが、どこか憎めずムードメーカーでもあるベンジーに困惑しながらもどこか羨ましく思う気持ちもある不器用なデヴィッド。
旅をとおして二人の距離が縮まっていくのだが、特段大きな出来事が起こるわけでもなく、ショパンの音楽をバックにたんたんと綴られているのが妙に心地良い作品となっている。
ツアーの他の参加者も含め、みんな悩みを抱えながらも前を向いて歩こうとしている姿に共鳴できる映画でした。
NYからポーランドへ。時間を遡り共有する旅。
この映画を観る数日前にトランプが、ガザをアメリカが所有し住民を移住させた上でリゾート地として開発するプランをぶち上げた。イスラエル建国以降のパレスチナ難民の歴史、自治区が置かれた経緯や事情を一切無視した暴挙としか言いようがない。土地や民族の歴史や記憶は、個人としての歴史や記憶と混ざり合い、感情や未来に向かっての意志を決定するということがまるっきり理解できないのであろう。つまりエンパシーという素養がゼロということであってこれが狂人でなければ一体何なのか。
さて、べンジーとデービッドが参加するこのポーランドツアーだが実によく設計されている。
収容所はもちろん、ユダヤ人が普通にポーランド人と暮らしていた古い街を訪ね、ゲットーの跡地でワルシャワ暴動の記憶にも触れる。ホロコーストだけでなく、ポーランドにおけるユダヤ人の歴史を簡明に紹介している。バックグラウンドでずっとショパンが流れているのは、ユダヤ人は異教徒として常に排除されるベクトルにあったのではなくかってはポーランドという国家、民族の構成要素の一つであったことを、国を代表する大作曲家の音楽を使用することで表現しているように思える。
ツアーには色々な背景を持つ人たちが参加する。ツアーガイドのジェームズは東欧におけるユダヤ人史を専攻した英国人だし、長らく米西海岸に住んでいて離婚したマーシャ、ルワンダで虐殺を経験したエロージュ、ポーランド移民を先祖に持つマーク夫妻。民族、家族、個人の記憶が交錯する。そしてベンジーとデビッドだが、二人の祖母であるドリーは収容所サバイバーであった。二人は少年時代に祖母に可愛がられ育ったが成人するとそれぞれの人生を歩み、いまや正反対ともいえる生活を送っている。だから彼らの祖母の時代(ポーランドでの)の歴史や、少年時代の記憶や、最近のやや疎遠になった二人の思いが交錯し、それぞれの傷を見せながらツアーの他のメンバーにも影響する。
ベンジーがジェームズに指摘した通り、ツアーはやや史実をなぞりすぎであり現代のポーランドの人達との交流はあまりなかったかもしれない。でもツアーメンバー同士の交流、特にベンジーを皆が持て余しながらも受け入れていくところ、他人の歴史を共有しエンパシーを高めていく効果はあったというべきだろう。
最後に、ベンジーとデビッドがお墓や家の戸口に置く石のことだけど、これは故人への思いとか鎮魂ということもあるけれど、彼らの人生の一区切り、ピリオドと解するべきだろう。他人の人生についてある程度の理解をした上で、自分の人生を先に進めるという決意の表れだと私は理解したのだけど。
ジェシーアイゼンバーグの脚本・監督の才能が光る
かなり好みの作品💦登場人物のベンジーと同じで目が離せない映画👀どちらかと言うとデヴィッドに感情移入しながら見ていくのだが、どうしてもベンジーの事を羨ましく思ってしまう。特に写真撮影のシーンがそうだ。自分は初対面の人たちとあんなふうに気さくに話すのが苦手でどうしても距離を置いてしまう。ベンジーのように社交的で思った事を恐れずにはっきりと口に出せるのがうらやましい。と、思うと同時に心配にもなる。だが、心配してるのは自分だけで受け入れる他者。この旅は、彼らにとってはかなり辛い度であり、自分自身と向き合う旅でもあり、この映画を見ることによって、彼らと一緒に旅をした気持ちになれると言ったら大袈裟だが、少なくとも自分の中にいる彼らに似た感情と向き合うことが出来た。見終わったあとに自分の中で特別なにか考え方が変わったとかはないが、心になにかが残った。言葉では表せない不思議な気持ちになるが、とても好みの素晴らしい映画でした。そして、ジェシーアイゼンバーグの監督&脚本家としての才能ヤバすぎだろ!今後も楽しみです🎶
巧妙な脚本による心温まる珠玉の作品
いるんですよ、こうゆう奴、私の大親友の1人がまさにそう。無難な常識に囚われた私からすれば「よせよ、そんな今更恥ずかしい、ややこしくなるだけでしょ、きっと嫌がられるよ」と阻止せざるを得ない状況でも、振り切って向かってしまう奴。いつまでたっても戻ってこない、面倒くさいと思いつつ様子を見に行くと、なんと相手の人々と旧来の友のように奴は打ち解け歓迎されてるではありませんか。どうゆう事?と思う以上に、呆れる以上に、その見事な対処能力に羨望すら抱いてしまう私。旅行だって詳細は全部私が決めると言うより、何にもしてくれないから、私がやらざるを得ない。そのくせその場の閃きで、人の迷惑顧みず本当に実行してしまう行動力には舌を巻く。
心底、我儘で勝手で奔放で、いつだって苛々させられる、おまけに頑固。でも、その本音の行動力と融和性に私はいつだって感服しきりなのです。しかも離れていると、奴がちゃんとやってるのか心配ばかりする私。まさに本作のジェシー・アイゼンバーグ扮するデヴィッドの心境が手に取るように分かるのです。しかし監督・脚本・主演を務める彼自身が実はベンジーではなかったか? これまでの彼の出演作を思い起こせば、そんな結論しか導き出せない。いわば彼自身の自伝的作品なのでしょうね。それをご本人が監督する段になって役をキーラン・カルキンと入れ替える決断が本作にとって大正解だったと言えます。
そのキーラン・カルキンのちょっと発達障害的なこの役の取り組みは、ほとんど天才的とも言える演技でほとほと感心させられる。アカデミー賞の助演男優ノミネートは当然どころか本命かも。引っ掻き回す助演の好演があってこそ、主演のジェシー・アイゼンバーグの「リアル・ペイン」が浮き彫りにされる作劇なんですね。主演男優枠ではノミネートされてませんが、せめて脚本賞を獲得して欲しい、それ程に巧妙に出来ているのです。
従弟同士の2人のユダヤ系米国人が亡くなったポーランドからの移民だった祖母の生家を偲んで、ワルシャワ・オプションツアーに合流する。ツアーメンバー揃っての人間模様を描く一種のグランドホテル形式かと思ったものの、中年の夫婦、リタイアした女、ウガンダの青年そしてガイドを務める英国人のそれぞれの内実まで入り込まない作劇なのですね。あくまでも2人の関係性が作品の縦軸で、横軸にユダヤの苦難の歴史を織り込んで来る。この案配が流石のバランスで、数多のホロコースト映画のように感情的に煽ることもせず、2人のコメディ路線をあくまで維持するスタンス。だから、史跡ツアーの帰り道バスの中で終始泣いてるベンジーの描写が極めて強い印象を残す。ガイドが事前に繰り返しツアーメンバーに念を押す「くれぐれもヘビーな体験となりますので、その覚悟を」みたいな警告描写があるものですから、映画の観客とて身構えてしまう。
我が国同様に欧米でもホロコーストは無かったなどと歴史修正主義者の声が響く昨今、語り継ぐ試みは今を生きる者にとって義務とも言えるものではないでしょうか? 2人の共通の祖母がもし収容所送りになっていたら、2人は確実にこの世に存在してないのですから。
ツアーから敢えて離脱したのは、彼らの亡くなった祖母の当時の家を訪ねるため。そもそも1930年代の家がそのまま残り、今も誰かが住んでいるってのが日本人の理解を超えたところで。25と記された住所の扉が今しも開いて祖母の関係者が顔出して、思わぬ展開が始まる、かと思いきや、何にも起こらないのが本作には実に相応しい。
ニューヨークから飛び立ち、ニューヨークに帰って来る、空港のロビーのベンチで1人佇むベンジーの様相で本編は始まり、またラストカットも同様で終る。極めて意図的なカットですが、旅を経てベンジーに成長と言いますか変化はしかしまるで感じさせなのがミソでしょうね。ご本人は人間観察と称してますが、凡人は思うでしょう、なにか裏でもあるのではと。いえ。本当に裏なんてなく、ただ見ていて飽きないのですよ本当に、奴等には。
珠玉の作品ってのは本作のような映画を言う。20世紀フォックスを買収し傘下に置いたディズニー。このゴリゴリの利益追求会社の下、20世紀スタジオと名を変え、そのまた傘下のアート系サーチライト・ピクチャーズは以降縮小されてしまうのね、と心配してました。が、本当に杞憂に終わり、良作を次々のリリースの素晴らしさ。オスカーノミネートには本作とボブ・ディランを描いた「名もなき者」もこの会社。ディズニーに感謝するしかありませんね。
真面目な映画
従兄弟同士の関係性が切なく胸打つ
生きていることの奇跡
私の残りの人生でポーランドに行くことはないだろうが、映画を観てデヴィッドとベンジーと共にこのツアーに参加している気分になれた。
私も多分ベンジーには最初、なんだコイツ!と思うだろうが、ワルシャワ蜂起記念碑の前ではおどけてベンジーと一緒に写真に収まってたりする気がするし、列車内でファーストクラス車両に乗った事の是非やツアーガイドの説明の仕方に噛みつくところなんかもベンジーが真剣にナチスに酷い目にあったユダヤ人の祖先に寄り添おうとしてることを理解すると思う。
ホロコーストで殺害されたユダヤ人の数は600万人。その半数の300万人がこのポーランドで亡くなられた。その時代を奇跡的に生き抜いた祖母がいたからデヴィッドもベンジーもこの世にいる。
先祖の存在を知ること、親への感謝を示すことを思い起こさせてもらった。
今年は始まったばかりだが、今のところ洋画No.1の映画です。
証
ホロコーストの生還者である祖母が亡くなり半年後、ニューヨーク在住のユダヤ人従兄弟の2人が、ポーランドツアーの旅行に参加する話。
空港に向かうちょっと心配性のデイヴが連絡してもベンジーからは返事がない…返事がない…返事がない…ベンジーはフライト時間に間に合うのか?とデイヴはやきもきしていたけれど、えっ?とっくに着いてた!?とマイペースでちゃらそうなベンジーが登場し巻き起こっていく。
マイペースで能天気かと思いきや、えっ!そこでキレる!?なベンジーだけれど、言っていることはわからなくはない。
そしてそんなベンジーに振り回されまくりのデイヴだけれど、いやー気苦労が絶えませんな(*_*)
ホロコースト、ユダヤ人、ポーランドということで、もちろん重い話しになるわけだけれど、ベンジーのキャラのおかげでおふざけ、というか悪ふざけの様な流れもあるし、2人の関係や祖母への思いとか、アイデンティティとか、そして2人の暗部とか、正直2人ともめんどくさいタイプではあるけれど、人間らしくてとても良かった。
良い映画でした。この映画が比較的高評価で良かった。この何とも言い難...
A REAL PAIN
本当の痛み→困った奴、だなんて!
彼らと共に巡る心の旅
痛みや弱さと共に生きる
祖母の死をキッカケに、疎遠になっていた正反対の性格の従兄弟がユダヤ人の歴史を巡るポーランドツアーに参加する数日間を描いた本作。
几帳面で真面目でちょっとコミュ障なところもあるけど家庭も仕事もある“普通の40代男性”のデヴィッドと、空気を読まず破天荒で明るく誰とでもすぐ打ち解けてしまう自由人ベンジー。ホテルや空港、ツアー客とのやり取りから、2人の性格が全く違うことで、お互いにストレスフルなことがビシバシ伝わります。デヴィットの気持ちがよく分かるので、うわー大変そうだ〜と思いながら観ていました。笑
強制収容所を含むユダヤ人の歴史探索ツアーなので、明るく楽しい観光というわけにはいかず。そんな道中で明らかになっていくデヴィットとベンジーの気持ちが胸に響きました。
大嫌いで大好きで、理解できなくて一番分かり合っていて、憧れで。そんな相反する気持ちを抱えている2人は、やっぱりとても互いを思い合っているように見えました。
痛みを抱えながらも、人生は続くし、生きていかなきゃいけない。前向きにならなくちゃいけない。それはとても難しくて、心が折れる時もある。
ラストシーンも、対照的でした。あれからどうなったのかな。安らぎと幸せが訪れていることを願います。
まさにリアル・ペイン
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